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「どーん。」

なぜかドヤ顔で取ってきた食事たちをテーブルに置く桃城。突っ込みたいところは色々ある。あるんだけど…ありすぎるからこれだけは突っ込ませて欲しい。

『なんでドヤ顔したんだよ』
「そういえばさー、舞鈴さんって誰かに似てる気がするよなー。」
『俺の話スルーかよ。かろうじて俺の方が先輩だぞおい。』
「なあ、越前もそう思わねーか?」
「別に……てか、舞鈴さんの話聞いてあげた方がいいんじゃないっすか?」
『リョーマああああ!お前本当いい奴!』
「どうもっす。」

危ねえ………桃城、侮っちゃいけないね。なんか、鋭い人多いよね、テニス部って。何でだ?もんもんと考える私をよそに、桃城は「まーいーか。」と自己完結ではないが、深くは突っ込まないでくれるらしい。よかった。

「なんやコレ!めっちゃ美味いで!なあ、白石もコレ食ってみいや!!」
「はいはい、ちょお落ち着こな?」
『相変わらず元気だよな、金ちゃんって。』
「………」

光に対して話を降ったはずなのだが、なぜか一行に返事が返ってこない。気づいていないのかと思い、もう一度話しかけようと光の方をみて、唖然とした。

『………』
「………」
『………』
「………」
『何やってんだ…?』
「ちょお、待ってください………今めっちゃ集中しとんのですわ…」

いや待てよ。何をそんなに集中してるのかと思えば、魚の苦いところだけこまめに除けてるし!光にも嫌いなものがあるのか?!

『嫌い、なのか?』
「………おん。」

ハイ、キター!嫌いだって。てかここバイキング!嫌いなものあるなら取らなきゃいいのに!どんだけ魚食べたかったんだよ!いや、まあいいけど。

「ふう………やっと終わったっすわ。いただきます。」
『ふっ、あははっ……』
「え?なにわろっとんのですか?」
『いや、だって……ぷっ、くくっ……光が魚の嫌いなところ除けっ、ふはっ』
「そんなおもんないっすわ…」

ぷくーっと膨れっ面をする光に、ごめんごめんと謝れば、俺にだって嫌いなもんくらいありますわと言われてしまった。そりゃそうだ。人間だもんな。うん、当たり前だよ。でも、面白いから膨れた頬を突ついてやる。

「ちょっ、なにするんですか!」
『ははっ、光照れてんのか?そんなとこもかわいーぞ!』
「んなっ…!」

照れる光が可愛くてついつい笑ってしまうと、やっぱり膨れっ面になる。これ絶対エンドレスでしょ。まあでも、流石に笑ってばっかじゃ光が可哀想だし、失礼だからね。

「………なんです?」
『ううん、なんでも。』

そっと微笑んで光の方を向いた。光の整った綺麗な顔を見ながら、こんな風に普通に笑いあえて、普通に友達と喋って、遊んで、部活して………みんなにとっての普通の生活が、私には後どれだけ出来るのか。いつまでも続くはずはないけれど、いつまでも続けばいいのになんて、儚いし淋しいけど。終わりがあると分かっているから残された時間を一分一秒でも長く、楽しく生活したいなって思うんだ。






*****






「クククッ………見〜つけた〜。ついに見つけたよ〜、昴美陽ちゃん。」

闇に蠢く影。刻一刻と終わりを告げる時計の針を早める怪しい人影に、未だ誰も気付かない。

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