第1話 V
目の前は大通り。
少女がその場から立ち去ろうとしたその時、一台の馬車が少女の前で止まった。
馬車を囲むように人々が集まってくる。
ゆっくりと馬車の扉が開き、一人の男性が中から降りてきた。
白い帽子に白い軍服、手にはスティッキを持っている。
男性は少女の前まで来ると優雅に腰を曲げて帽子を取り、一礼する。
「お迎えに上がりました、クイーン」
「その呼び方はやめろ」
少女の言葉に男性は薄く笑みを浮かべる。
「では、公衆の面前で本名で呼べと?」
男性がニコリと笑うと少女はもう面倒だと言わんばかりに溜息を吐いた。
「・・・もう十分人が集まっている。偽名で呼ぶという判断はお前にはないのか?」
「ふふ、申し訳ありません、クイーン」
男性は眉を引きつらせる少女をよそに極上の笑みを向ける。
「それより、早くお乗りください」
「誰のせいだと・・・!」
「皆様方、お騒がせいたしました。どうぞもうお戻りください。・・・では、失礼いたします」
スッと口元を隠して男性は哀れむような眼差しでチラと少女の表情を見る。
だが、あまり気にしていないことを確認すると男性は馬車のドアを開き、少女を中へと促す。
続いて自分も入った所で再び馬車を走らせた。
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