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少し寂しそうに笑う斎紫を和葉は、ただ黙って見つめた。
「なんて・・・そんな事を言いにわざわざ来た訳じゃないでしょう?」
そう言って笑う斎紫を見て、寂しいと思った。
何がどうという訳ではないが、ただ、寂しい、と。
故に、感情を押し殺したつもりでも、発する声にすれが出てしまうかもしれないが。
「―――報酬を、もらいに来た」
「報酬?それならもう払っ」
言うが早いか、斎紫が言い終わる前に、和葉は斎紫の顎を掴むと軽く口付けた。
一瞬の出来事に、理解できないという風に斎紫は目を見開いて固まっていた。
斎紫はそっと自身の口許に手を添える。
「・・・どうして」
「今のお前には、これで良いだろう?」
仄かに光を帯びた和葉の瞳は、どこか妖艶にも見えたが、少しだけ怖いとも思った。
「ーーー貴方、私に今したことをきっといつか後悔するわよ」
「巫女の予言か・・・恐ろしいな」
「彼女はどう?」
彼女、とは菘の事である。
「どう、とは?」
「あなたは、どう思ったのかと思って」
「―――腕はかなり。教えればまだ伸びそうだ」
「驚かないのね」
「巫女の役目は知っている。逆にそれくらいの方が良い。俺達も万能ではない」
「そう。私は、あの子があなたの特別になる事を願っているわ」
「・・・・・・」
黙り混んだ和葉を見て斎紫は笑みを浮かべる。
こういう話は苦手なのか、と。
「他には?」
「他?」
他に何があるという風に和葉は眉をしかめる。
「眉間に皺が寄るわよ。あるでしょう?だってあなた、前より刺々しい感じがしなくなったもの。怖がらせない様にしたりしているんじゃない?」
「他の奴の方が刺々しいからな」
「あまり歓迎されてないの?」
「そうではないが、まだはっきり見方だとも限らない」
「困ったわね。元はと言えばあなたが寄越せと言ったのに」
「お前もそう言っただろう」
それを聞いて斎紫は少し困った様に肩をすくめた。
「あら。私は巫女だもの。自らの予言に従ったまでよ」
「・・・・・・」
再び黙った和葉を見て、あまり話すことが苦手なのかと一人納得する。
一見、近寄りがたい雰囲気だが、意外と面白い人物なのかもしれないと斎紫は思った。
はっとした時にはもう彼の姿は無かった。
「巫女の予言、か・・・」
ふわり、と舞った季節外れの桜を見て斎紫は目を細めた。
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