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* * *
ぼんやりと、月を眺めていた。
自分一人で使うにはいささか広い部屋を見渡す。
広い畳張りの部屋に、文机、物は少ないが上等な部屋の様に見える。
ある一点を除いては。
ちらりと入り口の方を見れば、そこあるのは障子張りの戸ではなく、格子。
格子の外では忍が一名たまに見張りに来る。
そう、ここはいわゆる座敷牢。
本来、ここ祓い屋では崇められている絶対的地位にいたはずの巫女。
しかし、先日、菘を逃がさしたことにより現在に至る。
自然と胸を寂しさがうめつくす。
そっと、斎紫は顔を上げた。
ふわり、とあるはずのない物が舞った。
はらりと落ちたそれは桜の花弁。
「―――・・・」
まだ咲くには早いそれを拾おうと斎紫は手を伸ばす。
「―――久しいな、斎紫」
不意に聞こえた声に斎紫は伸ばしかけた手を止め顔を上げた。
長い銀髪が揺れる。
切れ長の青い瞳がこちらを見ていた。
「・・・和・・・葉・・・」
嘘だと思った。
こんな敵地に来るはずが無いと。
風早もいない今。
ここに来ることがどれだけ危険な事か、知らないはずがないのに。
「―――斎紫」
低い声がそう呼ぶ。
はっ、と顔を上げれば、その青い瞳と目が合った。
「―――ここから出たいか?」
その瞳が揺れる。
不覚にも、月明かりに照らされたその瞳が綺麗だと思ってしまった。
斎紫はそっと自嘲する。
「お前は死を望むのか?」
死にたいのか、と問うて来る。
死にたいか?と聞かれて斎紫は笑った。
「死にたい訳ないじゃない」と。
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