07



食べ終わった食器を洗うべく、菘は井戸へと向かった。


久しぶりに見た太陽に少し目が眩んだ。


そっと、自らの手を見て自嘲した。


まだ、ここへ来て1日しか経っていない。


依然、あの日の夜の傷は完全には塞がっておらず、手には切り傷が残っていた。


滲みるだろうか、と思いながら水を汲もうとした時だった。


風を切る様な音と共に鎖鎌が飛んできた。


それは頬の横を勢い良く掠めて井戸に刺さった。


短刀に伸ばしかけていた手を引く。


「・・・何でここに人間がいんのさ」


不機嫌そうにそう言いながら彼は鎌を引く。


難なくそれを右手で受け止めると、再び菘を睨み付けた。


が。


「―――朔、止めろ」


「和葉様っ!?」


気配もなく突如姿を現したその人物に朔と呼ばれた少年と菘は驚きを隠せずに目を見開いた。


「そいつは昨夜からここに住むことになった、元(もと)祓い屋の巫女だ」


「祓い屋っ!?何でよりによってそんな奴がここに・・・!?」


「蒼詠から聞いてないか」


「聞いてない!!ってか、俺は人間が大嫌いなんだよ!!この前だって・・・」


「今のお前もそうだろう?祓い屋というだけで決めつけている。人にもいろいろいるだろう?」


口調は静かだがその瞳は有無を言わせない鋭さがあった。


「でも・・・!!くっ、・・・それでも、それでもっ」


目に涙を溜めて少年は和葉を睨み付ける。


「俺は認めないからなっ!!」


長い一つ結びの銀髪を揺らしながら彼は背を向けて何処かへ走り去って行った。


「―――すまない」


いいえ、と菘は首を横に振る。


彼が謝る事ではない。


あの少年が悪い訳でもない。


「この里で、祓い屋の名は出すな」


理由が分からずに和葉を振り仰ぐ。


彼は淡々と言った。


「祓い屋だけではない。朝廷や幕府もだ」


どうして、と問わなくても何となく理解する。


「皆、良く思ってはいないのですね・・・」


むしろ敵。


自分達の命を脅かすものでしかないのかもしれない。


もしかしたら、その名を聞くだけで不快感を顕にする人もいるのかもしれない。


だがら、自分の身を守りたいのであれば口にするなと彼は言っているのだ。


「さて、―――出掛けるか」


「え―――?」


驚いて目を見開くと和葉は肩に触れてきた。


「洗い物はそのままでいい。傷に滲みるだろう?着物を買いに行く」


「着物・・・」


そう呟いてはっと顔を上げる。


背が高いため、どうしても彼を見上げる形になってしまう。


「き、着物なんてそんな高価なもの・・・!!」


「気にするな。それに、青よりも・・・紅や桃色の方が似合いそうだ」


そっと肩から手を放して彼はそう言った。


相変わらずその表情は変わらないが、これが普通なのだろうと慣れた。


自分も元々感情豊かな方ではない。


それでも、その切れ長の瞳が幾分柔らかい事に菘は気付いた。


安心できる様な柔らかさがある。


「行くか」







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