08






初めて訪れたこの里の町は、想像するよりも賑わっていた。


商人の活気のある町。


昔は幕府のお膝元もかなり賑わっていたらしいが、今では戦の名残が酷いらしい。


それらはここに来る前に全て和葉から聞いた。


そして、そっと自身の胸元に手を当てる。


薄い桃色に、桜を基調とした着物。


彼の母親のものらしい。


それを出掛ける前に貸してくれた。


断ったものの、どうせ仕舞っておくだけだからと言って渡された。


本当に、驚くほど保存状態が良い。


大切にされていたものだと分かる。


だからこそ、申し訳ない気もするが、さらに突き返すのも失礼な様な気がして今に至る。


「―――ここだ」


一件の呉服屋の前で和葉は足を止める。


そもそも呉服屋に来たこと自体初めてだが、それでもこの店は大きいのではないだろうかと思った。


彼に続いて、紺色の暖簾を潜って店の中へと入る。


「店主を」


それだけで店の女性は奥へと向かって行った。


店の中を見渡していると、向かいから声が響いてきた。


「ここは大店なんだ」


「大店?」


いつの間にか目の前に和葉は腰掛けていた。


そっと手で隣に座るように促される。


「と言っても・・・この隠れ里に呉服屋はここしかないがな」


もしかして、この里はそれぞれの店が一件ずつしかなく、ここだけで自給自足を行っているのだろうか。


だとしたら・・・。


「いやぁ!!いらっしゃいませ!!ようこそお越しくださいましたっ!!」


和葉よりも少し高めの声が店の奥の方から聞こえたと思うと、一人の男性がこちらへやって来た。


「丁度出来上がってますよ。何分量が多いのと急なことだったので徹夜しちゃいましたけどね」


右手を頭の後ろに当てて「ははは」と乾いた笑いを浮べる釣り目な青年。


金とも違う、薄い茶色の様な・・・金に白を混ぜたような薄い色素の長い髪を後ろで一くくりにしている。


額には黒い布を一枚鉢巻の様にしばっている。


何とも風変わりな商人だ。


「―――お初にお目にかかります。私(わたくし)、白蛇(はくだ)と申します。よろしくお願いいたします」


にこりとその人は笑った。


「あ、は、はい。よろしくお願いいたします。白蛇様」


「ああ、貴女の名前は存じておりますので。それに・・・ここで不用意に名乗るのも危険ですから。ささっ、どうぞお上がりください。直ぐに女の者を呼んで参りますので奥でご試着を」


柔らかく微笑んでいるのに断れない何かを感じて菘は慌てて差し伸べられた手に自らの手を載せた。


「妬かないでくださいね?」


にっこりと微笑んでそんな意味の分からない事を和葉に言うと上機嫌でその人は手を引いていく。


菘を女達に任せると白蛇は和葉の元へと向かった。


姿勢良く腰掛ける和葉の後姿を見て薄く笑みを浮べる。


「まさかいきなりあんな事を言うとは思ってもいませんでした」


すっと優雅に隣に片膝を着く。


「何も言わないんだな」


「まさか」


それまで浮べていた笑みをすっと隠して目を細める。


「私の性格を知っていますよね?―――自分の目で確かめます」



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