h×h


暖かいなにかに包まれて、ゆらゆらと揺らされている。
そう感じながら、ぱち、と目が覚めたら見たことのある顔が目の前にあった。



「…こんにちは」

お姫様抱っこで真を抱えているのは、見たことのある人。
逆立てたオレンジの髪、頬にペイント。
挨拶をすれば、彼は私を見て口を開いた。

「こんにちは、僕の果実」


ああ、これはもう補正かかってますね。
諦めましょう。
私に挨拶を囁く彼はゆっくりとした足取りで歩いている。
どこへ向かっているのだろうか。
見える景色は当然、真の知らない景色だもので、どこへ向かおうとしてるのかなんて、検討もつかない。


「私は真と申します。あなたは?」

「ボクはヒソカ。よろしくね真」


にこりと笑うヒソカ。彼は優しく微笑んでいるつもりなのだろう。

その笑顔怖いデスヨ。

出てきた言葉を飲み込んで、真は曖昧に笑って見せた。


何回目かで気がついたのだが一番最初に会う人は殆どが私の世話を焼きたがるらしい。
私を抱えたまま移動を始めた彼にバレないよう小さく息を吐く。
今回も、靴は買って貰えないのだろうか。
残念でならない、また私の足ではどこにも行けなくなってしまうのだ。


「足を斬られるよりも、マシ、だろう?」


「ハイ、ソウデスネ」

なんで私の考えていることがわかるんだろう。
こいつエスパーか…?



いやしかし、彼なら一切の躊躇いなくやりかねない。
交換条件があるというのならそれを受け入れるが吉だ!



「ああ、君がその妙な力で逃げようとしても、斬るからね」

「…ハイ」

だからなんでわかるんだこの人。魔力って、念みたいなものなのだろうか、オーラになって見えてるのかな。
魔法を使うことも許されないのかな。

「別に身を守る為になら使ってもいいけど、ボクから逃げるために使ったら、酷い目に合わせるからね」

「逃げなきゃいいの?」

「いいよ」



おっとこれは拍子抜け。
身を守る為なら使ってもいいなんて。



「逃げるとか考えないんですか?」

「考えないよ。君、念が見えてないみたいだしね」

君に繋がるこの糸、見えないだろう?


ニヤリと口角を吊り上げて彼は私の肩を指先でたたく。
目線を向けても私に繋がる糸なんて見えなくて、素直に頷く。


「はい、まったく見えません」

「この糸が見えないならまったくもって構わない。君には見えて貰ったら困るからね。ああ、でも。見えるようになったらすぐにボクに教えるんだよ?」


ボクとの約束だ。

そう言うと彼は器用に私を片腕のみで抱きかかえ、小指を差し出してきた。

ううん、怖いなぁ。この人。


「アナタがいなくて、私がひとりで移動しなくてはならないとき、アナタを探すために箒に乗ってもいい?」


「箒?ああ、君魔女ってやつかい?ならいいよ。魔女が箒に乗るのは普通なんだろう?」


ヒソカの基準がわかんなくて私涙目。

「じゃあ、約束する」


差し出されている小指に自分の指も絡ませる。

指切りげんまん 嘘ついたら 両足もらう。


なんてホラーチックな指切りなんだろう…。でも、この人に見つかった時点で諦めるべきの自由だから、約束してくれるだけマシなんだと思う。


「ホラ、ここが今日から君も住む場所だよ」


見上げた先には大きな塔。
見たことあるこれ、なんていうんだっけ?
うんうんと名前を思い出すために悩んでいるわたしをそのままに、ヒソカは塔の中へと入っていく。

ヒソカはわたしにこの塔の名前を教えるつもりがないらしい。

…まあヒソカから離れなきゃ迷子になる理由もないしね。

ヒソカを一目見てザッと道が開ける。
ヒソカに向ける畏怖の目、私に向けられる憐憫の目。
それらをものともせずに、ヒソカはそのままエレベーターに乗った。


「ヒソカ、ヒソカ」
「なんだい?」
「これからよろしくお願いします」


「…ああ、君はボクのものだからね」




ヒソカはそうして昏い瞳で笑った。




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