OP CP9 四角い鼻のあの人

「カク」

真がワシの名前を呼ぶ。


「ああ、冷蔵庫の中にもうなんも残ってなかったんじゃっけか。じゃぁ買いに行こうかの」


ただそれだけじゃが、ワシは真が何を言いたいのかを察して、真にオレンジ色の靴を履かせた。
ちなみに、この靴はワシが一番最初に真に買ってやったプレゼントの一つだ。靴を買ってやった時の真の顔は見ものじゃったなぁ、驚愕と疑惑、そして感動。小さく笑って声にしないでもお礼を述べた真の可愛さといったら、それはそれは筆舌に尽くしがたい。


靴を買ってやった理由?
そんなの真が欲しがっていたからに決まっておるじゃろう。
ワシは世界政府の特殊部隊じゃぞ?たとえ話さなくても、一般人の少女の感情思考を読むのなんか朝飯前じゃて。

だから、真にはワシの名前以外の言葉のを口にしないように言い含めておる。なぜかって?わざわざ聞かなきゃわからんのか?
別にワシの名前だけでも十分何を伝えたいのかわかるからの。


オレンジ色のパーカーを身につけた真を抱き上げて、ワシは部屋の窓を目指す。徐々に真の顔色が悪くなっていくが、それを無視して窓を開ける。


「カク」

「ん?大丈夫じゃ!」

「カク!」

静止の意味を込めてワシの名前を呼ぶ真ににっかりと笑顔を向けて、窓枠に足をかけ、そして。

勢いよく飛び出した。


「ーーーーーっ!!!」


声にならない悲鳴をあげながら真の腕がワシの首に強く巻きつく。
悲鳴すら声に出さないなんて、非常に物分りが良い℃q供じゃのう!



数階下の屋根に足をつけ、山嵐の通り名に恥じない軽い空中散歩を楽しみながらいつもの店を目指す。
顔が真っ青になっている真の涙目が可愛くてつい意地悪してしまうが、声を出さなかったご褒美をあげようか。

必要なものを買って、軽い荷物をもたせた真に帰りは歩いて帰ることを伝えれば、とても輝いた笑顔が返ってきた。
空中散歩は好きじゃないのかのう、ワシは好きなんじゃが。
あれか、意地悪しすぎたのが悪いんじゃろうか。

空中散歩を好きなってもらうためにしばらく意地悪を控えようと決心したワシの視界に、黒いシルクハットが入り込んだ。
足を止めてワシらを見つめるその男に気が付いたのか真の顔色が変わり、そっとワシの背後に隠れるように背後に下がった。
真のその仕草に男の眉間にシワが寄るが、残念ながら自業自得じゃとワシは思うぞ、うん。

「ルッチ、珍しいのう。お主も買い出しか?」


朗らかに笑いかければ男の眉間にさらにシワが寄った。


「まだそんな訳の分からない子供を連れ歩いてるのかクルッポー」

その言葉に真の体が小さく震えたことがわかった。
そういう風に真を否定するから悪いんじゃって、ルッチ。

そんな瞳をしておきながら真へ本心と真逆の言葉を口にすることができることは素直に凄いと思うんじゃ。
本当じゃ!ワシだったら真にこんな風に怯えられるのなんてゴメンじゃからな!


ああ、しかしこういう風に怯える真を見るのも悪くはない。ルッチに感謝じゃ。


「怯えんでも大丈夫じゃ、真。ワシがおるじゃろう?」


背後に腕を回し真の頭を撫でる。
怯えられている事実を告げればルッチの瞳にワシへの怒りが灯る。
ワシに当たるなと言うておるに!
どう考えても初対面で尋問と言う名の追い剥ぎをしようとした自分のせいじゃろうが!


「すまんのう、空腹が限界じゃから、お暇させてもらうわい」

すまん、先ほど伝えたご褒美は無しじゃ真。
小声で謝ってから、小さな体を抱き上げる。
これ以上ルッチと話すのは面倒じゃし、なにより真にとって好ましくない。
ルッチの顔なんて職場でいくらでも見れるんじゃから、ここでいつまでも見ておかなくたっていいじゃろ!

「待てカク!クルッポー!」

「待たん!」

行きと同じく屋根を伝って帰る。
ホッとした様子の真にワシもホッと息を吐く。
真のルッチ嫌いは見ていて可哀想じゃからな。ルッチも、真も、どっちも。


開けっ放しの窓から戻り、真を床に降ろして冷蔵庫へと食品を仕舞う。
真には靴を脱いでくるように伝えてきた。



真は室内では靴を脱ぎたい派らしい。
ワシも靴を脱ぎたい派に転職した。


ほとんど機能していない玄関で靴を脱いでいる真を見ているうちに、先ほどの考えが口から滑り落ちた。


「真はまるで監禁され慣れておるようじゃのう」



大きく真の肩が跳ねて、勢いよくワシを振り返る。
その動きに、ワシはニンマリと口だけの笑みを見せた。


図星のようじゃ。



黒い瞳に明らかな怯えを含ませながら、身振り手振りでなにかを伝えようと震える口を開く真。



「カク」

「勘違いじゃないじゃろう?」

「カク、カク」

「んん、そう怯えるな。ワシは思ったまでを口にしただけじゃ」


これだけ怯えているというのにワシとの約束を守り続ける真は完全に飼いならされた愛らしい愛玩動物じゃ。
よっぽど、怖い思いをしたんじゃなぁ。

なにも言わずに立ち続けるワシを見上げる真の足は震えていて今にも崩れ落ちそうなほどだ。
怯えた瞳は潤み始めていて今にも涙がこぼれそうじゃ。


なにか勘にさわることをしてしまったのだろうか。
なにで怒らせてしまったのだろう。
怖い。
怖い。
助けて。
どうしよう、どうすればいいの。

手に取るように真の考えている気持ちがわかって、なんだか弱いモノいじめをしているようじゃ。


「ワシは怒ってないし、真を怖がらせるつもりは無かったんじゃ。本当じゃ、すまんのぅ、真」


いままでの空気を壊すためにあえて明るい声で笑って見せれば、少し間をおいて、真の緊張がほぐれた。


「カク、カク」

「本当にすまんの真。ほら、おいで」

恐る恐る近づいて腕を広げてきた真を受け入れるためにワシも膝をつき、腕を開き、抱きしめる。


別のやつに教え込まれたのは、恐怖と痛みと絶望ならば。


それをワシが教える必要なないというわけじゃ!
それはつまり今以上に怯えられるの必要がないということ。


「のう、真」

「?」

一度腕の力を緩め、首を傾げる真の顔を見る。


「お主は、もうワシのモノじゃろう?何処へでも付いてきてくれると言ってくれるか?」

ここでの任務はもうすぐ終わる。
その時、真を共に連れて帰りたい。

ジッと自分を見るワシに、真が少し考え込むように目線を下げた。


「…うん」

「!」


ワシの言いつけを破ってまで、ワシについてきてくれると、真は今、断言した。


こんなに嬉しいことがいままで生きてきた中であっただろうか!!


「その言葉、絶対じゃぞ!」

抱き上げて、そう宣言すれば、真は微笑んで、頷いてみせた。


ワシのモノじゃ!
もう、とられる心配をしなくとも、真はずっとワシと共に居てくれると口にした!約束した!


ああ、真!


「ワシはお主を愛してる!」







このあと原作の出来事に巻き込まれてCP9の逃避行に連れまわされることになったりならなかったり。





「その子供、俺、ほしいなぁ」

って目が座ってるルフィに言わせるのもいい。

















prevback|next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -