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くすくすと内緒話をするように顔を近づけて笑う二人に真も目を細めて笑う。

もうすぐこの地獄から脱出できるということで気が楽になっているだろうか。
三人は笑顔を浮かべたまま薄暗い改札を抜ける。
たとえ無賃乗車をしても、ここの防犯アラームが鳴ることはない。

無人のプラットホームへと足を踏み入れれば、三人の足音だけが響いて反響する。


クレアがなにやら難しい機械を操作している。
そういえばクレアはエンジンがあれば好きなバイクを作れると言っていたっけ。機械に強いというのはすごいな。



パチ、パチ、パチ、と電気がついて明るくなる。非常用バッテリーでも起動させたのだろうか。


明るくなったことにより多少の安心感を得た真とシェリーが手を握りながらほう、と息を吐く後ろで、いまだ機会を操作していたクレアが小さな舌打ちをする。





カウントダウンのブザーが響きまわっている。





「ゲートが開かない」

「えっ」


クレアいわく、大事な部品である解放装置が足りない、というのだ。
困ったようにこちらを見るクレアに、真がこくりと頷いて見せる。きっとクレアは探しに行きたいが私たち二人を置いていくことが不安なんだ。それならば。

「きっとこの駅のどこかに落ちてる。私、取ってくる」

解放装置がどういうものかは正直、知らない。クレアが驚いて声をかけようとしてくるが、それを真は抑える。

「私だって、二人の役に、たちたい」

自分を見る少女の瞳が何を言っても意見を変えないと察したのか、ため息をひとつはいて頷いた。

「じゃぁ、お願いするわ」

「大丈夫。すぐ取ってくるから」



そして、駅構内へと小さな冒険に出た真はあまり時間をかけず、クレアの望んだ解放装置手に戻ってきたのだった。













ゾンビたちは不思議なほどに見当たらず、真が首を傾げていると、ふと大きな恐ろしい足音が聞こえ始めた。





姿を現したそれは、2m以上はあるだろう大男で、大股でこちらに向かってきている。その距離はもう目視できるほどの距離で、それはすでにプラットホームの箸に足を踏み入れていた。



「ミスター・Xっ」

震える声でクレアの呟いた声にシェリーがぎゅう、と幸運のお守りを握り締める。慌てて後ずさるも、その大男の目的はシェリー一人のようで、なにかにクレアが気がついた。

「…シェリー!そのロケットを!私に投げて!」



クレアの視界から完全にシェリーの姿が見えなくなる直前に、クレアの足元に金のロケットが転がった。うまくコントロールができたようだ。


そのロケットを拾い上げ、クレアは大男に挑発するように掲げて見せた。




「ほら!このノロマ!これが欲しいんでしょう!」




クレアの考えは正解で、大男は筋のロケットを所有していないシェリーなどかけらも意識していないような動きで今度はクレアへと強敵を変えた。

走りながらクレアはシェリーと真へ隠れるように声を飛ばす。
先程までは不思議なほど存在していなかったゾンビ達がこちらへと歩いているのが見えた。


「電車が来たら飛び乗るのよ!」


ミスター・Xを一手に引き受けてくれているクレアの代わりにシェリーを護らなければ。
転がっていた鉄パイプを手に持ち、シェリーを背後に、真はゾンビに向かってかまえた。

大丈夫。
私はできる。レオン兄さんがいなくても、この少女を護ることができる。


クレアが銃をありったけ撃っている音を耳にしながらただひたすらにこちらに手を伸ばしてくるゾンビ達の足、脛骨を強打して折っていく。
最初の方は頭に突きさし確実に絶命させていたが、体力の限界だってある。


もともとギリギリの精神力でやってきていたのだ。呼吸は大きく乱れ、鉄パイプを振るう腕だって重くて、今すぐに座り込んでしまいたい。

けれど、真の背中には小さく震える少女がいるから、真はここで座り込むわけにはいかないと自分を奮い立たせることができた。





ふいに、女性の声と共にクレアとミスター・Xの間に何かが投入される。それが何かをはっきりと意識する前にクレアはそれに向かって駆け出し、自分の腕の中へと納めた。



あぁ、マシンガンだ。



持っていた弾は全部使ってしまった。


でも。


これがあれば目の前のミスター・Xを殺すことができて、あのベイビー達この地獄から救い出すことができる。



マシンガンをかまえて、クレアは引き金を引く。


マシンガンの発射音と共にミスター・Xの腹部に穴があいていく。
それでもこちらへ向かってこようとするミスター・Xに容赦なく、弾丸を雨霰と浴びせてやる。


あんたがいる限り、絶対にここから安全に脱出はできるわけがないし、脱出できたとして安全に暮らしていけるとは限らない。



あんたには、ここで死んでもらう必要が、確かにある。





こちらへと向かってこようとしたミスター・Xの身体が、とうとう真っ二つに裂けた様を見て、クレアはまずこのマシンガンを投げ入れてくれた女性を探す。



「ありがとう!脱出するのなら!行きましょう!!」


クレアの声に女性は背中を向けて、走り出す。



ようやく到着した電車。

左ももを切り裂かれ、立つことすらままならなくなっていたクレアをシェリーが支え、真は鉄パイプでこりずに向かってくるゾンビ達の足を折っていく。


クレアとシェリーが運転室へと無事に入ることができたことを確認してから、真はあえて後ろの方から手動ボタンを操作して電車内へと乗車する。
すぐさま閉めたドアのガラス向こうでゾンビ達がきぃきぃと耳障りな音を立てる。


それらを無視して、真も運転室へと向かった。











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