ひまわり 大輪の花を咲かせてやる。 大きく掲げた目標に向かって、走り出したものの続かないのが私。 「横綱、また太った?」 ヒッキーの声を、聞こえないふりでやり過ごす日々。 「ねぇ見て見て」 甲高い声で自分の写真を見せたがるのが、マッチの最近の日課。 スリムになったウエストがよほどうれしいらしく、やたらと強調した服を買い揃えては、それをスマフォに収めて来るのだ。 「なんでも良いけど、沖縄行くお金、使い果たしちゃうんじゃない?」 心配顔のヨーデルが珍しく、声のトーンを落として訊いた。 「うん。それはね、だいじょうぶなの」 何だかこやつ、怪しいと踏んだ私はすかさず、まさかあんた、出会い系なんかしてないよね。と突っ込んでやった。 「まさか! 私、そんなバカじゃないよ」 「いえいえ。充分バカですから」 ヒッキ―が冷たく言いのけると、マッチ、顔を真っ赤にして、ひっどいと抗議し始める。 穏やかじゃない雰囲気が、4人を取り囲んでしまっていた。 「あぢぃ」 割って入るようにやって来たのが、ヨッちゃん。 「芳郎、今、くんじゃねーよ」 凄みある私の言葉に、ヒッキ―を動揺しきった目で見る。 この時ばかりは、ヒッキ―も無言で、首を振り回れ右をするように促し、それに従いヨッちゃんはあっさりと退場して行くと思われたが、ああそうだと言って、足を止め振り返る。 「明日の花火大会、来るでしょ?」 学校がある町内会の納涼花火大会が明日、しめやかに執り行われ、そこでゲストとして吹部が呼ばれていた。 「だから、今、そう言う雰囲気じゃないんだってば」 珍しく、ヒッキーがキレ気味に言うと、もういいよと怒って鞄を肩にかけ帰ろうとするマッチのその手を、私は咄嗟的に捕まえていた。 「あんたね、何かあってからじゃ洒落にならんのよ。そうやって隠そうとすること事態、変だよ。言ってみなよ」 「マッチ。誰か、付き合っている人いるの?」 ヨーデルが泣きそうな声で聞くと、不貞腐れたマッチが、居たら悪いと言い返えす。 「悪いとか悪くないとかじゃなくってさ、お金、絡んでないよね」 言いにくいこと言えちゃうのが私。言ってしまってから、あっと思うのも私。ヨッちゃんも、ドア付近で耳をそば立てて女子4人の話を聞いた。 「少し、年が離れているだけよ。彼、仕事しているから、お小遣いとかくれるの」 「お小遣い?」 ヒッキーの呟きに、マッチの目が完ぺきに泳ぎだし、みんなが沈黙する。 マッチこと巻下千菜美の恋のお相手は、同じジムに通てくる、30代半ばのおっさん。車を売っている仕事で、やたらに金回りが良いらしい。まぁ皆様が想像した通りの関係で、きっと何を言っても無理なんだろうなと、誰もが口にしなかった。 「沖縄、行くよね?」 ヨーデルの目には涙があふれて、マッチは何も言おうとしなかった。 「じゃあこういうのはどう?」 ヒッキ―の言葉にみんなが注目する中、嫌な予感がした私は、一人眼光が鋭くなってしまっていた。 「横綱が10キロダイエットに成功したら、マッチ、その人を私たちに紹介するっていうのは」 思った通り、こ奴の脳みそ、一回かち割ってみてやろうか。マッチの恋と何で私のダイエットを絡んでくるんだ? それに、ガキが10人寄ってたかっても何の効力を発揮しないだろうに。 「あと、ウチの姉貴にも紹介して」 「はぁ?」 一斉にハモられても、ヒッキ―は動じなかった。むしろか勝ち誇ったように笑みを浮かべ、 「良い。これを守らなかったら私、何するか分かんないからね」 この言葉、案外効力あるんだなぁ。 ヒッキーこと、広川夏妃は躰は弱い癖して、頭はやたらにいい。ついでにいうと、この姉貴というのが優れもんで、弁護士なんだよね。父親も公務員だっていうし、本人あまり言いたがらないけど、警察関連だって噂だし、口がやたら立つんだよね。普段、あまりものを言わない分、本領発揮しだすと手に負えなくなる。ましてや姉妹でタッグを組まれた日には、向かうところ敵なし。これは中学の時、立証済みだ。そのお陰で、私は陰湿ないじめから解放されたのだ。 下校を促す校内放送に弾かれるように、私たちは学校を後にした。 この衝撃的な出来事は、私から食欲を奪い、思いがけないダイエット効果をもたらし、それが三日と持たず、リバンドさせるという悲しい事実を胸に、私たちの夏が始まった。 ひまわりの花言葉・・・あなたはすばらしい。偽りの富。 戻る ×
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