短編集 | ナノ
2、天敵を倒せ!

 猫が、我が家に住みつくようになってから一週間目の月曜の朝。近所に住む叔母がやって来た。
 マシンガンのように話すこの叔母が、私は苦手だ。
 保険のセールスをしている人はみんなこんななんだろうか? 人が嫌がっているのも気が付かずに、ずかずかと人の心に入り込んでくる。
 「おはよう。麻里香ちゃんのママに会って聞いたんだけど、あんた虐められているんだって?」
 藪から棒に何なんだ?
 そうなのと、母が心配そうに聞いてくる。
 ずる休みをするタイミングを外したじゃん。
 「そんなことあるわけないじゃん。変なことを言わないで」
 「あら、いつから猫を飼ったの?」
 猫が叔母の足をカリカリと引っ掻く。見事に伝染したストッキングを見て、心底、ざまーみろと嘲笑ってやった。
 慌てて代わりのストッキングを探しに母がキッチンを出て行くと、どっこらしょと目の前に叔母が座り、カバンをごそごそとし始める。
 この光景を何度か見せられている。
 案の定、スットッキングを持って来た母親に、成績が足りなくて協力をしてくれない、と話を持ちかける。
 そんな余裕がないのは、子供の私でも知っている。
 「おばさん、無理だよ。止めてうちばっか来るの」
 「あんたは、そんなこと口出さなくていいの。さっさと学校に行きなさい」
 クソババ!
 キッと睨みつける私に、荒れてるのと叔母が母に尋ねる。
 その途端、ギャッと言う悲鳴に近い鳴き声が聞こえ、叔母がごめんと謝る。
 足元にいた猫の尻尾を踏んでしまったらしい。
 その反動で、テーブルの上のお茶を零し、書類を台無しにした猫が、勝ち誇ったように振り返って見て行ったのを、私は見逃さなかった。
 スカッとした気分で玄関を出ると、猫が塀の上で昼寝をしていた。
 「上出来」
 私がそう声を掛けると、片目だけ開けた猫がにやっとした気がする。
 これから少し、生きるのが楽しくなりそうな予感に、私の足取りは軽かった。。

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