1、迷い猫 その猫が我が家にやって来たのは、私が中学2年の時。 部活も授業も何となく嫌いで、友達といるのも面倒くさくて、全部無くなってしまえばいいのにと心のどこかで思っていた。 この頃やたら男子は女子を、女子は男子を異常に気にし始めていた。 大人の恋愛などにも興味を持ち始め、こっそりとその手の雑誌を回し読みをする男子。初体験をしたと、クラスで一番バカな女が告白するや否や、一躍ヒロインに祀り上げられる。 毎日が騒々しくて、私には煩わしくて仕方がない。 学校に行かなくて済むなら行きたくない。何となく頭が痛い。お腹の調子もすっきりしない。休みたい。親に言うのが面倒臭い。だから仕方なく学校に行く。だからつまらない。 そんな中途半端な私だから、人ともうまく付き合えないのは必然的だった。 孤立。 そんなのへっちゃらだと思っていたのに、いざ群れから離れてみると意外と堪える。次第に仲が良かった子から、罵声を浴びせられる様になる。 人の不幸ほどおいしいものはない。きっとそんな感覚なんだろう。ついこの前まで一緒に通学していたのに、今日は知らん顔になっている。 くそ! 呪ってやる! そんなことを思いながら電車に乗り込む。自然に涙が零れた。 学校に行くのはやめにしよう。 そんな誓いを立てながら、改札を抜け家に向かって歩き出した私の前を、一匹の猫が横切って行く。 トラ縞の猫だ。 一回立ち止まって、何か特別なものでも見たように目を見開きこちらを一瞥してから、その猫は酒屋の脇道へと消えて行った。 まったく、猫にまで馬鹿にされているの私。 そんな気持ちになって、また涙が出て来た。 だんだん家に近付くにつれ、気が重くなる。 家の前、私はえっと立ち止まる。 さっきの猫が我が家の塀の上で、一鳴きして、私を出迎えた。 私、頭が変になってしまったのかしら? 確かに今、おかえりと言われた気がする。 「あら、弥生おかえり」 玄関から祖母が買い物をしようと出て来た。 「また来ているんだね」 え? 「この猫、最近よくここで昼寝をしているんだよ。お前、知らなかったの?」 「知らない」 「なんだろうね、この猫を見ていると死んだ爺さんを思い出すんだよね」 祖母が目を拭う。 「何も泣かなくてもいいじゃん」 「爺ちゃんに会いたいねー」 「ばあちゃんボケた?」 「かもしれないね。じゃ、ちょっと買い物行って来るね」 何となく猫に目を向ける私を見て、にゃんと鳴いてみせる。 やっぱり駄目だ。 よろしくと聞こえてしまう。 あり得ない。首を振って玄関を開けた私の脇を、その猫が当たり前のように尻尾をピンと立てて、中に入って行く。 そして、その日から猫は家族の一員になった。 戻る ×
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