短編集 | ナノ
8、トモダチ?

 「馬も肥える秋」
 「馬がどうしたって?」
 漫画を読み耽っている私の耳元で、急にそんなことを言いだした猫。
 「最近太って来たよな?」
 「わ、た、し?」
 わざとらしく一字一句切り、自分を指して訊く私。
 首を右斜め45度の傾げ、他にいるのと訊ね返す猫。

 一瞬の沈黙。

 猫は相変わらず憎たらしくて、ドタバタと大騒ぎをしているところに母が入って来た。
 「電話」
 子機を突きだされ、その隙に猫が逃げ出す。
 もしもしと出た瞬間、眉がへの字になる。
 「久しぶり? 覚えている? 愛華(まなか)だよ〜」
 中学時代のクラスメイトだ。かわいらしい顔をしていて、確か演劇部。
 「あのさ、頼みがあるんだけど」
 碌でもないことだろうと言うか、中学校の時の人と関わりたくない。
 「ええ。私に頼みごと?」
 「弥生、今でも話を作ったりしているの?」
 弥生って、そんな親しくないのに呼び捨てにするんじゃねーよ。
 「ええ何でー」
 中学時代、嫌いな奴を弄り倒した物語を書いてやったことがある。密かに一人で楽しんでいたのに、ああ、私のバカ。寄りによってなぜそのノートを落としてしまったのだろう? 愛華に拾われて、中身を見られてしまった。
 「今度の文化祭で発表するのを、みんなで持ち寄ろうってことになってさ、私そういうの苦手だからさ、お願いできないかなって思って」
 フン、虫の良い奴。ホント嫌い。
 「ね、ね、ね、いいでしょう? とりあえず原稿用紙3枚でよろしく。明後日までに書けるでしょ。弥生なら」
 いつか殺してやる。
 「無理だよ」
 「トモダチを助けると思って」
 友達じゃないもん。
 「分かった」
 適当に酷いの書いてやる。

- 8 -
*前 次#

戻る
×