短編集 | ナノ
7、食欲の秋

 何とか入った高校は女子高。男子がいない分、気楽と思ったら違っていた。
 異性の目がない気楽さから言葉は酷いし、やって来るいじめも露骨で醜い。化粧をするさまは、化け物だ。
 そんなことをぶつぶつと言っていると、猫がふにゃっと起き上がった。
 「う〜ん、こういう時は飯だな」
 は?
 「腹は空いては戦は出来ぬ。こんな有名な言葉、知らないの?」
 「知っているけど、何で今?」
 「う〜ん。それは俺の腹が空いているってことかな」
 猫は得意満面でニャオ〜ンと部屋を出て行く。
 最近、この芸当を見に付けた猫は、私の部屋を好き勝手に出入りしている。エナメルのカバンはすっかり猫の居場所になり、祖母がクッションまで置いてあげている。
 階下に降りると、兄貴が久しぶりに帰って来ていた。
 猫に牛乳をあげている。
 「弥生、たまにはクリを風呂に入れてやれよ」
 兄貴は苦手だ。私を見るといつも何かを命令して来る。
 「ええ、面倒」
 「女じゃないなー。オレと入るか?」
 「ニャン」
 やっぱりこいつはホモだ。
 尻尾を大きく振って、牛乳を飲んでいる猫を横目に、私も牛乳を飲む。
 「腹減った。何か食うもんねーの?」
 「猫」
 兄貴の言葉に、すかさず私は答える。
 冷ややかな目で見る兄貴と、まともに目を合わせられずプイと私は横を向く。どうしてもそりが合わないのだ。これ以上会話をするとケンカになるのは分かっている。それを知ってか知らないのか、猫がゴロゴロと兄貴に甘えるように体を摺り寄せる。

 「弥生なら食われても良いぜ」
 着替えを取りに兄貴が部屋に行ってしまうと、猫がニャンと鳴く。
 「そんなこと、しないよ」
 憤慨。そんな言葉が頭に浮かぶ。
 「獣だかんな弥生は。弱肉強食されちまうんだ俺。弱い者いじめ反対!」
 「だから」
 「ほーい。クリ風呂入るぞ」
 「みつるは良い奴だよな。俺の一番の理解者だ」
 本当に食ってやる。
 その夜、祖母が湯がいた栗をたらふく食べ、私は腹を壊した。
 猫の逆襲? どんなに腹が空いてもアンタだけは食わないよ。
 トイレで私はそう誓った。

- 7 -
*前 次#

戻る
×