9、私のナイト 「物語はダメ教師。この教師の授業ときたら、黒板に向かってお経みたいに唱えているの。で、生徒は当然、授業放棄してバカ騒ぎをするの」 「ありがちな内容ね」 愛華がくるくると髪を巻き上げながら言う。 嫌ならいいんだ。書きたくて書いたんじゃないんだから。 「そうだね。そこで転校生が登場して、そいつがまた変な奴でっていう設定なんだけど。止めときますか?」 「あっ、猫」 え? 愛華が身を乗り出すように、窓の下を指さす。 駅前のファーストフード店の二階席にいた私たちは、顔を見合わせた。 猫が、きちんと信号待ちをしている姿を見て、私は思わず叫ぶ。 「クリ?」 「知っているの?」 「たぶん、ウチの猫」 私は目を細める。 本当に来たんだ。 今朝、私は散々猫に愚痴を聞かせた。愛華に会うのはどうしても気が乗らなかった。 「たぶん、こういうの求めていなかったんだよねー。仕方がない。自分で書いた奴にするかって、自分が書いたのを見せるんだよ。そして、面白いでしょうってあったまに来るくらい可愛い笑顔で言うんだよねー」 「ふーん。そうなんだ」 毛繕いなんか呑気にしてんじゃねーよ。 「私、今日犯罪者になれる気がする」 「おいおい、穏やかじゃないなー」 「だってー」 「分かった。俺がそばにいてやる。そして犯罪者一歩手前で止めてやるから、安心して、学校に行ってくれたまえ」 「急にどうしたの?」 「いや、別にー」 って会話は確かにしたけど、信号が青に変わりどこかのおばあさんと横断歩道を渡った猫がこちらを見ている。 わかんのかな? 店の近くに植えられている銀杏の木を、スルスル登り始めた猫から目が離せなくなり、愛華が何かを話しかけて来たけど、全然耳に入らなかった。 「バーカ。帰るよ」 木を見上げて言う私にめがけて、猫は飛び降りて来た。 「つめてーな」 普通受け止めないわよ。 落下してくる猫を見て、私は飛びのいたのを根に持って、ずっとこれを連呼している。 だけど……。 「ありがとう」 「えっ? 何?」 「何でもない」 戻る ×
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