ジグソーパズル | ナノ
(36ピース目)


 何もかもがくすんで見える世界。
 一人きりで新年を迎え、愛のないセックスをし続ける。
 もうこんな生活にピリオドを打ちたかった。
 そんな私の心を読んだかのように、頻繁に電話をかけてくる細渕。どこかへ消えてしまいたかった。悪い男と分かっているのに、声を聞いてしまうと恋しさに変わってしまう。会いたいために、金の臭いを漂わす会話。もう一人の私が、必死でそれを止めようと何度も警告音を発する。
 三日も経たない内、細渕は甘ったるい会話と、悲惨な自分を私にたらふく味あわせ、キスだけでお金をふんだくって行く。
 そうなんだ。もう私の体に興味はない。

 「ごめん、今日はこれしかないわ」
 封筒の中身を見て、細渕の顔が不機嫌に変わる。
 「たったこれだけ? 指名が続いてナンバーワンになれたって言ってたじゃないか」
 「うんそうだよ。お客で一人、本気で私を気に入ってくれた人がいて、一日貸切状態にしてくれたりするんだ」
 「だったら」 
 「だったら何?」
 細渕の鋭く光った視線が私に突き刺さる。
 「家、時々帰るようになったんだ」
 上ずった私の声が、耳の中で木霊する。
 「何でだよ。もうあんな家には帰りたくないって言ってたじゃねーか」
 「そうだけど、友達の家、遊びに行ってたら何だかお母さんに会いたくなっちゃって」
 「いくらか置いて来たのか」
 「あなたには関係がないことでしょ。私のお金よ。私がどう使おうとあなたに文句言われる筋合いじゃないでしょ」
 「真理恵、今日のお前、おかしいぞ。まさか、薬、やってねーだろうな」
 ふっと込み上げて来る悲しみが、胸を締め付ける。
 「そんなのやってないよ。何なら家探しでもしてみたら」
 私はするすると洋服を脱ぎすてた。
 「何を考えているんだ?」
 「何も」
 そのままバスルームへ逃げ込もうとする私の腕を、ものすごい形相の細渕が掴む。
 心臓が喉から飛び出してしまうくらい、私は緊張していた。
 「俺は、お前のことを愛しているんだ。本当だ信じてくれ」
 強く抱きしめられた私は、そのまま唇を重ねるが、すぐに突き放される。
 「今日、何人相手にして来たんだ。まだしたいのかよ」
 一瞬で私の心は凍りついていた。[*prev] [next#]
[BKM]
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