何もかもがくすんで見える世界。
一人きりで新年を迎え、愛のないセックスをし続ける。
もうこんな生活にピリオドを打ちたかった。
そんな私の心を読んだかのように、頻繁に電話をかけてくる細渕。どこかへ消えてしまいたかった。悪い男と分かっているのに、声を聞いてしまうと恋しさに変わってしまう。会いたいために、金の臭いを漂わす会話。もう一人の私が、必死でそれを止めようと何度も警告音を発する。
三日も経たない内、細渕は甘ったるい会話と、悲惨な自分を私にたらふく味あわせ、キスだけでお金をふんだくって行く。
そうなんだ。もう私の体に興味はない。
「ごめん、今日はこれしかないわ」
封筒の中身を見て、細渕の顔が不機嫌に変わる。
「たったこれだけ? 指名が続いてナンバーワンになれたって言ってたじゃないか」
「うんそうだよ。お客で一人、本気で私を気に入ってくれた人がいて、一日貸切状態にしてくれたりするんだ」
「だったら」
「だったら何?」
細渕の鋭く光った視線が私に突き刺さる。
「家、時々帰るようになったんだ」
上ずった私の声が、耳の中で木霊する。
「何でだよ。もうあんな家には帰りたくないって言ってたじゃねーか」
「そうだけど、友達の家、遊びに行ってたら何だかお母さんに会いたくなっちゃって」
「いくらか置いて来たのか」
「あなたには関係がないことでしょ。私のお金よ。私がどう使おうとあなたに文句言われる筋合いじゃないでしょ」
「真理恵、今日のお前、おかしいぞ。まさか、薬、やってねーだろうな」
ふっと込み上げて来る悲しみが、胸を締め付ける。
「そんなのやってないよ。何なら家探しでもしてみたら」
私はするすると洋服を脱ぎすてた。
「何を考えているんだ?」
「何も」
そのままバスルームへ逃げ込もうとする私の腕を、ものすごい形相の細渕が掴む。
心臓が喉から飛び出してしまうくらい、私は緊張していた。
「俺は、お前のことを愛しているんだ。本当だ信じてくれ」
強く抱きしめられた私は、そのまま唇を重ねるが、すぐに突き放される。
「今日、何人相手にして来たんだ。まだしたいのかよ」
一瞬で私の心は凍りついていた。[
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BKM]