ジグソーパズル | ナノ
(19ピース目)


 散々迷った私は、メモを小さく折りたたみ財布の中へしまった。
 
 それからと言うもの細渕からは連絡が入らなくなった。
 1日に数回電話やメールが来ていた人から連絡が来なくなるというのは、案外堪えるものだなと、昼休み、公園のベンチに座り着信履歴を見ながら、私はため息をつく。
 考えてみると、私から細渕に連絡をしたことはあまりない。メールも送られてきたものに、返事を書くだけで、この際自分からと思った矢先、ベルが鳴る。
 
 「真理恵? 生きている?」
 素子の元気すぎる声に、私は少しだけ受話器を耳から離し、期待を裏切られた気分で、うん。何とかねと私は答える。
 「今夜、空いてる?」
 「何よ急に」
 「ライブハウスに行かない?」
 「へ? 珍しいね。素子がライブなんて」
 「う〜ん、約束していた友達にフラれちゃって、一緒に行ってくれないかな〜って言うか、行こう。行って下さい」
 そう言うことか。つまり男にフラれたってわけですか。
 そんなことを思いつつ、別に用事はないけどと答えを渋る。
 少し、意地悪をしたくなった。
 別に素子に恨みはないけど、不公平に思えて仕方がなかった。たった一人の男を満足に愛せもしないくせに、誰もが彼女を選ぶ。悔しい? そんなんじゃない。
 「ねぇお願い。良いでしょ」
 甘えた声に、もうと言う私に、ケラケラ笑った声でありがとうと素子の声が返ってくる。
 待ち合わせの時間と場所を決め、私は電話を切った。

 少し足を延ばし東京のライブハウスについた私たちは、その雰囲気にすぐによってしまっていた。
 カクテルを2、3杯飲み、甘ったるいバラードに、意味もなく良いねと、口にしていた。
 私は煙草を取り出し、フーと煙を吐き出し、素子が少し驚いた顔をしてから、なんか大人になったねと微笑む。
 ああ、きっとこういう仕草なんだろうなと、そうかなと答えながら、私はふと思う。
 ダメだ。かなり酔いが回っている。そう思った私は、そろそろ帰らないと素子を促す。
 もう少しと言う素子に、じゃあ私は帰るねと言って席を立った。
 きっとこのこと知りあってから初めてだと思う。いつでも私はこの子に合わせて来た。
 「何か怒っているの?」
 「別に、終電がなくなると厄介だから」
 そっけなく言う私の後を追うように、素子も店から出て来て、一緒に並んで歩く。
 「なんか寒いね」
 上目づかいで訊いて来た素子を見て、プッと噴出してしまう。
 「何がおかしいのよ〜」
 「何でもない。急ごう。こっちの終電に間に合っても、最後の乗り継ぎが上手く行かなかったら最悪だからね」
 「間に合わなかったらどうしよう?」
 「その時は、間に合う方の家にお泊りか、じゃなかったら野宿」
 「マジ?」
 にっこり微笑む私を見て、素子はようやく本気で足を速めだす。
 真冬の風が心地よかった。

 




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