人が大量に吐き出される改札の前、細淵の姿を探していた。
昼休み、突然会いたいと言うメールに驚く。
出来れば早引けをして欲しいと言う細淵に従い、私は仮病を使って待っていた。
「真理恵、こっちこっち」
慌てて振り返る私の手を握り、細渕が人をかき分け先を急ぐように歩く。
「何かあったんですか?」
無言のまま細淵はデパートの地下に止められてあった自分の車の前まで私を連れて行くと、肩をガックリ落として見せた。
「良いから乗って」
「何かあったんですか?」
少し怒ったような表情を浮かべ、細渕は無言のまま車を発進させる。
「俺の身辺調査をする奴がいるんだ」
へ?
高速に入り、すぐだった。
「こういう業界だろ? ちょっと親切にしてやったり仲良く歩いていると外野がうるさくって堪らない」
きょとんとする私を見た細渕が、柔らかい表情に変わり、真理恵は良いなと呟く。
「真理恵に嘘はないよな。素直っていうか。俺を信じてくれるし、なんか俺、マジで真理恵のこと惚れちまったかも」
「またまた。そんなこと言ったら恵子さんに怒られますよ」
声がわずかに上ずる私に、細渕はこの上ない笑みを向けて来る。
「ジョークだよ。ジョーク。やっぱ真理恵はいい。癒されるわ」
都心に入り、細渕はビジネスホテルに車を入れた。
「さあ、上手いもんたらふく食べるぞ」
車を止めた細渕の手が、私の髪に触れる。
じんと体の奥が熱を帯びる。
「意外と速かったわね」
待ち構えていたかのように、恵子が現れ、グッと私は緩みかけた唇をすぼめさせた。
「今日、恵子の誕生日なんだ。予定していた仕事がキャンセルになっちまったから、ちょうどいいやって思って」
「勘弁してくださいよ。ものすごい怖い顔してたから焦ったんですよ」
「ごめんごめん。普通に言ったら、まじめな真理恵ちゃんは断らわるだろうって思って」
ケラケラと笑う恵子の手が、細渕の腕に伸びる。
その二歩後に私が続き、エレベーターに乗り込む。
絶対崩してはいけない距離。
「三日待てばクリスマスだな」
トイレに立つ恵子の後姿を見送りながら、細渕が言う。
「そうですね。あっという間の一年だったな」
「真理恵のクリスマスイブはどうなっている?」
真顔の細渕にじっと見つめられ、私は俯いてしまう。
「仕事オンリーです」
「良かった。夜、空けといてよ。真理恵が好きなAHIに会わせてあげるから」
「うっそー」
「コンサートのリハ中だけど、少しぐらいは時間取れんだろって脅したら、時間を作ってくれたんだ。何なら友達も誘いなよ。俺からのクリスマスプレゼントだ」
興奮しきったところに、恵子が戻って来た。
「私の悪口でも言っていたんでしょう?」
急に口を噤んだ二人を見て、恵子がにこやかな笑顔で言う。
「違うんです。細渕さんがAHIに会わせてくれるんです」
一瞬、恵子の笑顔が止まったような気がした。
「良かったじゃない」
すぐに気を取り直した恵子に言われ、私は子供のようにはいと返事をする。
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