ジグソーパズル | ナノ
(15ピース目)


 矛盾だらけの夜。
 家から10分ほど歩く場所のコンビニ前で降り立った私は、ぎこちない笑顔で礼を言い、走り出す車に向かって手を振った。
 妙に夫婦なのによそよそしい会話。関西野郎とのやり取りの信憑性の無さ。出会って間もないのに、不自然に親身になられ、私は戸惑っていた。

 男はみんなこんな物なんだろうか?

 豆に掛かってくる電話に、眉を顰める。

 「あー、真理恵? 今、ラジオ局にいるんだ。恵子の奴も一緒で、九州放送だからそっちは無理かな? 今度俺らの曲も流したいから、本気で書いてくれよ」

 軽快な喋り。
 あの日以来、細渕は私を真理恵と呼ぶ。
 私の中でも細淵への感情が微妙に変わってきているのは確かだ。

 「あー、恵子に変わる」
 そんなのと言いかけて細淵から恵子の声に変わり、明るいトーンで、何、用事って?
と訊かれ、あたふたとテキトーに話を繋げる。
 最近こういうのによく出くわす。
 「じゃ、そろそろ行かなくっちゃ」
 「あーもしもし、真理恵、何か欲しいもんあるか?」
 しかめっ面の自分が鏡に映る。
 「急にどうしたんですか?」
 「クリスマスプレゼントだよ。ないならテキトーに用意しちゃうけど」
 緩んだ顔が赤くなっている。
 
 私は細渕が好き?
 そんな訳がない。あってはいけないこと。でも……。

 鼓動が速まる。
 
 ペンと紙の前でまんじりと過ごす。

 何作も渡した詞に曲が乗っかってきたためしがない。
 
 信じたい。信じなきゃ。
 細渕に褒められたい。髪を撫でられたい。
 ……愛されたい。[*prev] [next#]
[BKM]
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