矛盾だらけの夜。
家から10分ほど歩く場所のコンビニ前で降り立った私は、ぎこちない笑顔で礼を言い、走り出す車に向かって手を振った。
妙に夫婦なのによそよそしい会話。関西野郎とのやり取りの信憑性の無さ。出会って間もないのに、不自然に親身になられ、私は戸惑っていた。
男はみんなこんな物なんだろうか?
豆に掛かってくる電話に、眉を顰める。
「あー、真理恵? 今、ラジオ局にいるんだ。恵子の奴も一緒で、九州放送だからそっちは無理かな? 今度俺らの曲も流したいから、本気で書いてくれよ」
軽快な喋り。
あの日以来、細渕は私を真理恵と呼ぶ。
私の中でも細淵への感情が微妙に変わってきているのは確かだ。
「あー、恵子に変わる」
そんなのと言いかけて細淵から恵子の声に変わり、明るいトーンで、何、用事って?
と訊かれ、あたふたとテキトーに話を繋げる。
最近こういうのによく出くわす。
「じゃ、そろそろ行かなくっちゃ」
「あーもしもし、真理恵、何か欲しいもんあるか?」
しかめっ面の自分が鏡に映る。
「急にどうしたんですか?」
「クリスマスプレゼントだよ。ないならテキトーに用意しちゃうけど」
緩んだ顔が赤くなっている。
私は細渕が好き?
そんな訳がない。あってはいけないこと。でも……。
鼓動が速まる。
ペンと紙の前でまんじりと過ごす。
何作も渡した詞に曲が乗っかってきたためしがない。
信じたい。信じなきゃ。
細渕に褒められたい。髪を撫でられたい。
……愛されたい。[
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BKM]