report6


「自転車って言ってもやっぱりいろんな種類があるんだね。」

自転車屋の中を覗きながら斎は言う。


「そうだな…。あ、見ろよあれ。ひとつの自転車に二つサドルがついてるぞ。」と、ジュンは自転車の一つを指さした。

「あれは嫌。タンデム自転車って言うんでしょ?あれ。」

「ふぅーん。詳しいんだな。」

「偶々知ってただけだよ。どうせお金無くてレンタルしかできないから、そんなに頑張って選ばなくてもいいんじゃない?」

「うーん。まぁ、そうだな。っていうか、店閉まってるな。」

「そうだね。」

昨日店が閉まっているのは夕方だったからだとジュンは思っていた。
ジュンは「おかしいなぁ」と言って頭を掻く。

看板を見るととっくに開店時間になっている。

「そこにいる人に聞いてみてよ。」

斎に言われてジュンはこの町の住民らしき人に話を聞くことにした。

「あの、すみません。ここの自転車屋ってどうしちゃったんですか?」

「ああ、そこの自転車屋かい?ほら、あそこのあのビル。」

その人の指さす方には、何かのテーマパークのオブジェみたいなものが掲げられている変な建物があった。
でも、あの建物は…。

「宇宙エネルギーなんたらかんたら…って言う会社の建物なんだけどさ。自転車屋の店主があそこに行ったまま戻ってきてないらしいよ。
 でも、会社側の方はそんな人は来てないの一点張りで事実は分かってないそうだ。最近ポケモンが盗まれる事件も多いし、このあたりも物騒になってきたね。」




「よっしゃ。じゃあ行くぞ斎。」

「どこに?」ジト目で#neme#はジュンを見る。

「どこって、あの建物に決まってるだろ!」


遠目で見た感じのあの建物のクレイジーさ。
建物周辺に小さく見えるギンガ団。

ハンサムのいう事が確かならあの建物がギンガ団のアジトだろう。
まさかあんなに堂々と建っているとは思っていなかったが。

「私は行かないって言ったら?」

「俺一人で行く!」

「まぁ…だよね。」

ギンガ団についてどうのこうの言っても、ジュンは止まらないのは知っていた。
斎は仕方ないとジュンについて行くことにした。





「斎くん!」

ギンガ団のアジトであるビルに着いた時、自分を呼ぶ声に気付いて斎はそちらを向いた。

手だけビルの角から覗かせ、「こっちだ」と呼んでくる。
斎は黙って近寄っていく。ジュンもだ。

ビルの角を曲がったところで、自分を呼んだ人物を見た。
ギンガ団の格好をしているが、この人は…。

「あなた…聞いたことある声だと思ったら、ハンサムさんですか?」

「いかにも!」


ジュンが「知り合いか?」と聞いてきたので、斎は初めて出会った時のことや発電所で助けてもらった時のことを端的に話した。



「ところで、ハンサムさんはこんなところで何をしてるんですか?」

斎は言う。


「ポケモンの盗難が一番多く発生しているのは、どうやらこのハクタイみたいなんだ。ここのアジトが拠点になっている可能性が高いと思ってね。
   今こんな恰好をしているのは潜入捜査のためだよ。キミたちは?」

「私たちは自転車屋の店主を探しにきたんです。このアジトに行ったのを最後に誰も見てないそうなので。」

「なるほど…。あ、それならいいものをあげよう。」

そう言ってハンサムは持っていた鞄の中から何か取り出した。

「もしかしたら自転車屋の主人は何かの理由で捕えられているのかもな。
   救出するにも、正面突破なんてあまりにも現実的な方法じゃないからこれを使うといい。」

差し出したものは服とカツラ。ギンガ団の服一式揃っている。
きっとこれが無かったら正面突破するつもりだったのだろう。ジュンは苦笑している。


「でも、これ。男物ですね。」

斎は若干しわの寄っている服を広げる。

「そうなんだ。しかも残念ながら一着しかない。私のサイズに合っていなくて余ったものだからね。」


そうか。なるほど。と斎はジュンの方を見る。

「私は行けないみたい。」

「仕方ないな。俺がこのハンサムって人と行けばいいってことだよな?」

「そういうこと。」



「じゃあ宜しく頼むよ。名前は何て言ったかな?」

「ジュンです。」


そのやり取りを見て、「また後でね」と言うと、斎はその場を後にするため歩き出した。
ビルの周りで待っていたら怪しまれると思ったからだ。




ジュンもハンサムも斎に一言かけてから、アジトの中に入っていった。

アジトの中には何のためにあるのか受付が設けられていた。
心持程度のものだろう。
ギンガ団は表上宇宙エネルギー開発事業団と言う名で成っている。

二人はさっそくあたりにいるギンガ団にそれとなく話しかけてみた。
でも、どうにもはっきりとした計画や目標に繋がることは何も聞けなかった。

「こいつらが何をしたいのか分かりませんね。」上の階に進みながらジュンはハンサムに話しかける。

「そうだな。どうも、上の目的を下っ端が分かっていないようだ。もしかしたら幹部クラスのやつにしか伝わっていないのかもしれないな。」

「でも、そんなんで部下がついて来るものなんですか?」

的確な疑問をぶつけられてハンサムは首をひねる。

「うーん。それは、こいつらのボスがそれほどのカリスマを持っているってことだろうな。ただの憶測だがね。じゃなかったら…金だな。」


なるほど。とジュンは頷いた。
世の中には金さえもらえば良いという、極端に言えば傭兵のような人間がいるのをジュンは知っていた。

二階にくると、一階とは打って変わって機械物が多く目についた。それを扱う研究員のような人も。

何を研究しているのか聞いてみたら、どうやら、企業としての表上の名前にもあるようにエネルギーの研究もしているようだった。
だが、宇宙エネルギーではなくポケモンの進化の際に出てくると言われるエネルギーについてらしい。

それを聞いて、ジュンの脳裏にマサゴにてナナカマド博士の荷物が盗まれた時の記憶が浮かんだ。
博士はポケモンの進化について研究していた。関係があるのかもしれない。


「何の研究をしてようが、それを社会のために使おうとは思っていないだろうな…。それにしてもここにも自転車屋の主人はいなかったな。さぁ、次が最上階だ。」

ハンサムに促されてジュンはついていく。
階段の下から上の階を見上げる。
誰もいないのか薄暗い。何かを隠すにはちょうどいいとジュンは思った。





場所は変わってハクタイ、ポケモン像付近。

斎は観光気分で町を探索していた。

「生み出されしディア……私たちに時間を与える。笑っていても涙を流してい……同じ時間が流れ……それはディア……のおかげだ。
  生み出されしパル……いくつかの空間を作りだす。生きていてもそうでなく……同じ空間にたどり着……それはパル……のおかげだ。
  …………。」

ポケモン像に付いているプレートは所々老朽化していて読めない。





男が一人、ポケモン像に向けて歩みを進めていた。

スーツを身にまとい勿忘草のような青い髪を逆立てているこの男は、ぱっと見そこらにいる人と代わり映えしない人間であるがシンオウで有名な名士。
かのナナカマド博士やシンオウチャンピオンにも顔が知れている人物である。

その男がここに来たのはたんの気まぐれではなく、シンオウに伝わる神話を調べるためだった。


階段を登りつめ、男はポケモン像の安置されている高台に立った。

ポケモン像の前には先客がいて、思わず足を止める。

ポケモン像の正面に立ち、腕を組んで見上げている少女。
その顔はどこか不機嫌そうながら、不思議な儚さを感じられた。

記憶を失った後、ナナカマド博士に引き取られ完璧に腑抜けたと思っていたが、まだあんな顔ができたのかと男は思った。

何故此処にいるのかという事も含めて関心が高まる。


「斎くん。」男は少女に向かって声をかける。

斎は自分の名前を呼ばれ、男の方を見た。
その顔には微かに驚きを浮かべている。

それに構う様子も見せずに男は斎に近付いていった。


「貴方、だれですか。」

警戒の色を忍ばせ、男の出方を伺うように斎は言う。

自分が知らない相手に名前を知られているなんて不愉快だとさも言いたげだ。


「私のことが分からないか…まだ記憶は戻らないんだな。」

「……。」

「失礼、私はアカギだ。キミの父親の知友でね。キミとは何度か会っているんだが。」


斎は頭の中で何か思い出せないか、懸命に記憶の糸を辿ろうとする。
しかし、何も思いだせない。







突然電話のコール音が鳴りだす。

アカギはポケットから電話を取り出すと、「私だ。」と通話に出た。


「ああ、キミか。どうしたんだ?」

しばらくアカギが話し込んでいるのを、斎は聞いていた。

会話はちゃんと聞こえないが、話し方からして何か問題が起こったようだ。
部下がヘマをして上司に連絡が行くというシーンはドラマで良く見るけど、そのパターンか。


「どうか、しました?」

アカギは電話を切ると、斎は好奇心で聞いた。

「どうやら会社に泥棒が入ったらしい。ほら、ここから見えるだろ?あの丸い星のオブジェのある建物だ。」

アカギの指した建物を見て、斎は黙って驚愕する。

あの建物はギンガ団のアジト。
ジュンとハンサムが侵入していった場所だ。なら当然その泥棒はあの2人だろう。


「泥棒は捕まえたらしい。普段なら私が出向くようなことではないが。そうだな、斎くんここで立ち話も何だから、会社にくるかい?」


斎にとって願ってもいない申し出だ。
会社に侵入するよりも、会社に招かれる方が自分が捕まるリスクは少なくなる。
2人を助けることができるかもしれない。

だが、忘れてはいけないのはアカギがギンガ団の仲間だったということだ。
果たして、そう簡単に信じていいものなのか?

斎は、そのことも含めて考えた。
研究のレポートをまとめている時と同じくらい考えた。

「キミが記憶を無くす前のことを教えてあげよう。」

甘い誘惑。
斎は断ることもできたが二人のことが心配だったし、何より前の自分のことが気になってしょうがなかった。
どこまでアカギが知っているのかは分からない。
でも現にアカギは斎の名前を知っていたから、少なくとも何か知っているのだろう。


「…ご一緒します。」






後書き

結構長く



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