Lonsdaleite24


ある日斎はどこから手に入れたのかノートパソコンを持ち寄ると端末に配線を繋げていた。勝手にいじってスタースクリームに怒られるかもしれないが、トランスフォーマー達の機械は斎が扱うには大きいし、そのままでは作業効率が悪かったから仕方がない。上手くいくか自信はそんなに無かったが、思いのほか上手くいって、ノートパソコンでの入力を端末に繁栄させることができるようになった。

その様子を見てスタースクリームは驚いた。人間にしては賢いとは思っていたが、まさか規格があまりにも違いすぎる人間の機械とトランスフォーマーの機械を繋げるなんて、と。なりはこうでもキューブの解析を行ったのは伊達ではないということらしい。人間と一括りにするのは簡単だが、斎は人間でもれっきとした研究者なのだとスタースクリームは思わずにいられなかった。

斎は自分の考えが上手くいって作業のモチベーションが上がって上機嫌だった。端末に寄りかかってあぐらをかくと、その格好で作業を進めだす。

スタースクリームは斎のこの作業をしている時の表情にいつも目を惹かれてしまうのに気がついた。いつもヘラヘラとしている斎が真剣な表情をしているのがいつも気になってしまうのだ。

スタースクリームが考えにふけっていると、ドレッドウィングから通信が入ってきた。この静寂に水を刺された気がして気分が損なわれたが無視するわけにもいかない。


スタースクリームの元にサンダークラッカーとドレッドウィングが来ていた。

「あ、サンダークラッカー」

作業をしていたはずの斎がいつの間にかやって来ていた。

「持ってきてくれたノートパソコン役に立ったよ。ありがとうね」

〈お安い御用だ。お礼はデートで返してくれればいい〉

「デート?」

〈セイバートロン星を案内してやるよ〉

その時、静観していたスタースクリームが怒気をはらんだ声をだした。

〈その必要はないぞ、サンダークラッカー。俺は言ったはずだ。こいつにちょっかいを出すなとな。

「おお、怖ぇ〜」

その様子を見て斎は自分にとばっちりが来でもしたらたまらないと、そそくさとその場をあとにすることにした。

斎の姿が消えた後、サンダークラッカーはスタースクリームに向けて発言した。

〈何が気に入らないっていうんです?どうせキューブが完成したらバラバラにするおつもりなんでしょう?それとも俺があいつと仲良くするのが癇に障ると?〉

普段従順なサンダークラッカーが反論するのは珍しい。

〈そうだ。これ以上あいつの作業の進みが遅くなったら困る〉

〈そうじゃないでしょう。……あなたは俺の倫理回路がおかしくなったと思っているんでしょうが、だとしたらあなたもそうですよ。〉

〈どういう意味だ?言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだ〉

〈分かっているでしょう〉



最近やけにスタースクリームはピリピリしている。もはや自室と化したその場所に戻ると、斎はやれやれと食料の入ったダンボールを開けて中からジョイスティックを取り出して食べだした。ジャンクフードやお菓子は好きだが、それだけだとさすがの斎も肉や野菜が恋しくなってくるというものだ。

今度サンダークラッカーに言って持ってきて貰おうか、と考えたその時、斎は自分の身体の異変に気づいた。また、あの発作だ。視界にノイズが混じるように見たこともない映像が写りだす。無機質な金属の床や壁に重なるようにトランスフォーマーたちの言葉が浮かび上がる。最近悪化しつつあるこの症状は時折斎を悩ませた。1人の時なら問題は無いが、ディセプティコン、特にスタースクリームの前でこの症状があらわれるのは参る。スタースクリームに自分を解剖するような気は極力起こしてもらいたくないからだ。

死ぬようなことは無いからと長いこと放置していた発作だが、日常生活に支障が出るのは困るのもあってそろそろこの発作のことを考える気になった。

異星の言葉が頭に浮かんでくるなんて未知の症状だが、斎にはこの発作に思い当たる節があった。そもそもこの発作が起こるようになったのはミッションシティでの激戦を終えてその後目を覚ましてからだ。自分がスパークに触れて、それが何かしらの影響を自分の身体に与えているとしても、あれから相当の時間が経っているのだ。それが原因の可能性もあるが発作が起こるのがいきなりすぎる。そう考えると、ミッションシティでの戦いの後、意識を失っている間に何かがあったのだと斎は考えた。

あの時何があったのだろう?

どんな考えも憶測をでない。斎はぼんやりと原因がキューブにあると思っていたが、次第に自分の頭だけで考えたところで解決はしないと匙を投げた。宇宙人に相談できる相手がいればいいのだけが。



「終わったよ」

ある日斎は言った。

ここに斎がやって来て数週間。斎はやっとキューブの情報を全て端末に入力することができた。斎はこの仕事に真面目ではなく、ときたまスタースクリームをイライラさせることもあったがその報告に喜んだ。

スタースクリームはメインの画面を見、満足げに頷く。

〈確かに〉

スタースクリームは通信装置で遠くにいる仲間と何か話しだした。その通信が終わったのを見て斎はスタースクリームに話しかける。

「家に帰りたい」

〈悪いがそれは無理だ〉

「……そう」

斎はスタースクリームの言葉に疑問は浮かばなかった。むしろ、そうだろうな、と納得すらしていた。はじめからスタースクリームが自分を開放するなんて思っていなかったからだ。

用は無くなったがスタースクリームは不思議と斎を殺す気にはならなかった。少し前までは斎のこの特殊な体質に興味があって解剖もしたいぐらいだったというのに。今になってスタースクリームはサンダークラッカーの言っていた言葉の意味がわかった気がした。殺す気もないが手放す気もない今の自分の思考。自分も倫理回路が逆流を起こしてしまったのかもしれない。

スタースクリームは斎に近づくと彼女の首に爪をかけて引き寄せた。

〈お前は他の虫けらとは違う。大人しくするなら少しくらいは優しくしてやってもいい〉

「それは…光栄だね」

斎は目を伏せて言った。今の自分の状況に悲観しているのかもしれない。少なくともいつものようにヘラヘラとした笑顔は浮かべていないのにスタースクリームは満足した。

スタースクリームはそのまま斎を持ち上げると彼女の部屋までやってきた。

〈キューブが完成するまで大人しく待っていろ〉

斎をベッドに落とすと珍しく穏やかな口調で言った。

スタースクリームが出ていった後、斎はすぐにベッドから飛び降り扉に近づいたが、固くしまった鋼鉄の扉は開く事は無かった。スタースクリームにロックされてしまったのだ。

斎は諦めてベッドまで戻ると腰を下ろした。そして、考えだす。これからのことと、生きて地球に戻る方法を。

今の状況は殺される心配がないだけそこまで悪くは無いと言える。だけど、斎は大人しくしているつもりは無かった。


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