FOGGY DAY


頭に不透明な薄い膜が掛かっているようだ。
意識は白濁としていて、起きているのに身体が思うように動かない。
ベッドに仰向けになりながらほの暗い天井を見上げる。

自分の事もこの場所の事も、自分の周りにある全てのものが私には身に覚えがなく、えも言えない不可解な気持ちが絶えず

燻っていた。深く脳みそを使って思考しようとすると余計に霧が押し寄せてくるようで、次第に私は考える事がなくなって

いった。

私はここにいるべきではない。
私には何か……しなければならない事があった気がする。

でも、そんなこと、どうでも良かった気もする。

朝なのか夜なのか分からないけれども、日々新しい今日がやってきて、けれども私はベッドから起き上がれず無為に時間を

潰していくだけだった。

ある日仮面の男が言った。

「光の者よ、気分はどうだ?」

私は顔を向けた。彼は、毎日こうして様子を見に来てくれる。私はそれが嬉しかった。

けれど、どこか変な気がするのだ。私は彼のことをよく知ってる気がするけど、その一方で、知らない気もする。

彼がこうして私に話しかけるのが変な気が。

けれど、思い出せない。こめかみに痛みが走るようで、深く考えようとするのは嫌だ。

「ねえ、ラハブレア。キミはどうして私を光の者って呼ぶの?」

そう私が聞くと彼は少し言い淀んだ。

「それは……おまえの存在が私には眩しいからだ」

「キミを煩わせてる?」

「そうだな。だが、悪くはない」

私が眩しいと、彼は言った。そういえば、昨日か一昨日……一昨昨日だったかに、『私たちは対照的だ』と彼は言っていた

。いや、言っていなかったかも。とりあえず、言っていたような気がする。

でも確かに私たちは対照的なそんな気がする。


私は『私たちは対照的だった』と理由も根拠も無いのにそう思えた。あるべくしてそうだった。そういう確信に似た思いが

ある。

「私、キミのことが好きだよ。ラハブレア」

頭が痛みだす。それと一緒に思考にモヤが。私は、何か思い出さなくてはいけない。何を忘れたのか忘れたが、何か重大な

ことを。

「だけどね、どうしてか分からないけど、私はここにいてはいけないような気がする。何か、大切な事を忘れているような

……」

開いた窓から風が流れ込んでくる。窓の外を見た。白い世界。そうだ、何かに……誰かに呼ばれているような気がするんだ

。ここじゃない外の世界に私を待っている人が。

その時ラハブレアが窓を勢いよく閉めた。
外の光が遮られ、目の前にラハブレアが立つ。

「朔望」

彼の口調は穏やかだった。優しく私の髪を撫でて頬に触れる。

「何も心配しなくていい。おまえはこの屋敷でゆっくり養生しなければ。それに外の世界にはおまえが心を砕くようなもの

は何も無い」

彼は話しながら小さな壺の中に薬草を詰める。香薬だ。彼は私の体の為だとこうして時折香薬を焚く。確かに頭痛は和らぐ

のだけど、この香薬の匂いは甘ったるく、頭が働かなくなる。

煙が揺蕩う。

「待って……ラハブレア。まだ話し、が……」

頭がボーッとする。私が伸ばした手をラハブレアが掴んだ。

「心配しなくてもいい」

私の体をベッドに横たえながら、彼はそう言った。

目蓋が重い。緩慢な意識をなんとかハッキリさせようとするけど、意味を成さなかった。
意識が飛ぶ瞬間に見た彼の口元は笑っていた。


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