Lawless


動いてもいないのに疲れてどうしようもない。ずっと、ずっと長いこと同じ姿勢でいるからかもしれない。動けるものなら動きたいし同じ姿勢でいるのはやめたいけれど、それはできない。というのも、私は今拘束されているからだ。ここに監禁拘束されて2日は経っているかもしれない。ここには窓も無く、一日中電気が灯っているこの部屋では時間の経過が分からない。

視線を持ち上げて同じように拘束されている友人の様子を見た。私と違って怯えきっているしとても衰弱している。私はなんとなく、友達の死が近いのを感じていた。

友達の名前はモニカ。モニカは私なんかと違ってとても素直で、いい子で、真面目で、周りのみんなに愛されていて、私なんかには勿体ないくらいのいい友達なんだ。けれどそんな彼女は見るのが辛くなるほど酷い仕打ちを受けていた。全身血まみれだ。体のあちこちが切られ、両足の健は切断され、片方の耳は持っていかれてしまった。どうにかしたい。けれど、手段が見つからなかった。手と首に巻かれている黒い革のベルトは取れもしなければ壊れもしないし、その先についている鎖もとてつもなく硬い。

「……ねぇ、モニカ」私は彼女に話しかけた。

「大丈夫だよ、きっと逃げれるから……」

気休めでもそう言わなければいけない気がしていた。そうじゃないと、希望を持てないと、正気ではいられなくなってしまうような気がした。特にモニカは。

モニカはしばらく何も言わなかった。すすり泣いているから寝ているわけでもない。

「……あいつ」モニカはしばらくしてそう言った。言葉が詰まったようにまた沈黙して、少し泣いてから話しだす。「あいつ……どうして私だけ……」

私だけ。そう、私は何も手出しをされていない。まるで視界に入らないかのように。モニカが傷つけられている時、私は思いつく限りの暴言をあいつに向かって叫ぶけれど、今まで視線すらこちらに向かない。

「……分からないよ。もしかして、見せつけたいのかも……次はお前もこうなるんだって」

「……私、死にたくない……」

「……うん」


部屋の外から足音が聞こえた。部屋の外は恐らく通路になっているのだが、その通路を歩く人物は一人しかいない。あいつだ。

通り過ぎてくれと切に願った。願って願って、そして扉の前で足音が止まった。モニカの泣き声が大きくなる。そしてこの世の終わりを告げるようにゆっくり扉が開いた。

全身黒の気味の悪い覆面をした男が部屋に入ってくる。

男は、モニカの首に繋がっている鎖をゆっくりと引っ張った。鎖は天上で滑車に巻きついていて、上に引っ張られてモニカはつま先立ちになる。

「止めて……お願い、お願いしま、す」

首が詰まって苦しそうにしている。だが、男は手を止めなかった。モニカの体が宙に浮く。足が地面から離れ、しばらく暴れていたモニカはやがて静かになった。

私はモニカが宙につられ、力なく足を揺らしているのを絶句して見つめていた。この空間は異様だ。人の命がこんなに理不尽にも失われてしまうことに嫌悪を感じた。

私はゆっくりと視線をあいつに向けた。同じように男の目がこちらに向く。次は、私らしい。それはそうだろう。見逃してくれるはずがない。私もモニカのように傷つけられて終いには殺されてしまうのだろう。だけどこのまま黙って苦しませられるつもりはない。私はモニカのようにイイ子ではないのだから。

男は近くまで寄ってくると手を伸ばしてきた。黒い手袋をしているその手を私は思いっきり力を込めて噛んだ。男は悲鳴こそあげなかったがそれなりには痛かったらしい。力任せに引き離したと思ったら頭に衝撃が走った。目の前がクラクラする。しばらくして殴られたことに気づいた。口の中に甘い風味が広がる。

「触んないでよ」口から血を垂らしながら言った。

男は一瞬考えるように動きを止め、離れると私の鎖を引き始めた。殺される。そう思って抵抗しようとしたけど、どんどん引っ張られてしまう。つま先立ちになって首もこれ以上ないくらい伸ばしている。不思議なことに男はそこまで鎖を引くと、固定してそのまま立ち去っていった。

男の足音が遠ざかるのを確認して私はほっとした。ひとまずは殺される心配はないみたいだ。

水の音がして目を向けるとモニカの足をつたって液体が滴り落ちていた。


つま先立ちで長時間ほって置かれている。

抵抗したことに対する罰ということだろう。

けれど、こういう理不尽な仕打ちを受ければ受けるほど、私の中で赤い炎が勢いを増すようだった。元来私は負けず嫌い。絶対に鼻を明かしてやると、私は強く思った。たとえ死ぬとしても、いや、恐らく死ぬのだけど、ならいっそただでは転びたくない。

けれど、目下のところ私は復讐に燃えている反面足の痛みに耐えかねていた。足を休ませたら首が締まるからそうもいかず、ひたすら耐えなくてはならない。頭がおかしくなりそうだ。

時間は分からないがかなり長いことこのままで、体から力が抜けていく。つま先が震えてもうこれ以上頑張れない。身体を支える力が無くなっていって、次第に首が締め付けられて息が思うようにできなくなってきた。溺れた人のように必死に呼吸をしようとするが、目の前が真っ黒になっていく。音が聞こえなくなって自分の呼吸音すら聞こえない。

そんな限界を感じた時に、鎖が弛んだ。いきなりのことで私はそのまま床に倒れ込んで、両手が使えないものだから頭から落ちた。不思議とそんなに痛くはなかった。ぶつけた衝撃は確かに感じたけど、感覚が鈍くなっているようで変な感じだ。

鎖が勝手に緩んだのではなく、もちろんあいつが鎖を弛ませた。自分のことで精一杯で入ってきたのに気づかなかった。

床に倒れたままになっているとあいつがすぐ横までやってきて、無理やり起き上がらせるように鎖を引っ張ってきた。私の顔色を確かめるように屈んで顔を近づけてくる。首から頭のてっぺんまで沿うように頭を動かす。それこそ嗅がれているようで鳥肌が立つほど気持ちが悪い。だけど、目と鼻の先にあいつの頭があるのはチャンスだと思った。

おもむろにあいつの首に噛み付いてやった。今度は布越しじゃない。直接噛み付いて思いっきり力を込めた。口の中にまた甘い味が広がる。だけどこんどは私の血じゃない。決して離してやるものかという意気込みで食らいついていたけど、ついには引き剥がされて突き飛ばされた。その時硬いものにぶつかる音がして、自分の意思とは関係なく電源が落ちたように意識を飛ばした。


次に目を覚ました時、相変わらず同じ部屋にいた。寝起きから頭部にじわじわと鈍痛を感じて寝起きは最悪だ。頭を強くぶつけたせいで気を失っていたらしい。

それに口の中に違和感を感じた。口の端が引っ張られてるような感触に、舌で確認すると棒状のものが引っかかっていた。口が開けられない。もう噛まないようにと猿轡を装着させられてしまったらしい。相当きつく結ばれているようで舌で押しても外れる気配がない。

冷静につとめて周りを見回す。有り難いことにあいつの姿はない。そしてモニカも……。モニカはどこかへ連れていかれたみたいだ。山の奥に捨てられるのかもしれないし、火葬炉で灰になるまで焼かれるのかもしれないし、もしくはこ難しい名称の溶液で溶かされてどこぞに流されるのかもしれない。この思考はドラマに影響されすぎてる気がしなくもないが、なんにせよ、そうなりたくはない。

幸いなことに今は鎖が弛んだままだった。そのお陰で可動範囲はぐっと広くなっている。鎖を巻きとっているクランクまで手が届けば鎖の固定を外すことができるかもしれない。両手が使えないものだから立ち上がるにも一苦労する。できるだけ近くまで寄ってみたけど拘束されたままの手は伸ばせず、クランクには届かなかった。手と首が痛くなるのも我慢して鎖を引っ張るが少しも伸びない。どうしたものかと少し考えて、次は足ならどうかと仰向けに転がって足を伸ばした。今度は上手くいった。足に力を込めてクランクを回す。

ここから逃げられる。そんな希望を抱いた時だった。外から足音が聞こえてきたのは。淡い希望は絶望とセットなのはもはや定番なのだけど、今はそうなってほしくはなかった。

クランクを巻き切って鎖が自由になったのと同時に静かに扉のノブが捻られた。こういう時、どうしたらいいんだろう。出口はひとつなのにそこには敵が。もうあれこれ考えている暇はない。あいつが油断している隙に横をすり抜けるしかない。そう思い切ってまだこちらの状況を把握していなかったあいつに半ばぶつかるように部屋から飛び出した。一回転んでまたすぐに立ち上がると走り出す。後ろは怖くて振り返れない。とりあえず逃げなくては、と思ったその瞬間、急に後ろに引っ張られて走った勢いもあって私は仰け反るように転倒して腰をぶつけた。しばらく痛みで何が起こったのか分からなかったけど、さらに引っ張られる感触がして理解した。地面に引きずっていた鎖を掴まれてしまったようだ。抵抗したけど力及ばずそのまま、また部屋に引きずり込まれる。

壁に押し付けられ、私の体を跨ぐように体を寄せてくるあいつに体が震えるほどの嫌悪感を感じた。今までにないほど近い距離で流石に居心地が悪くて身じろぐ。顔のすぐ横にあいつの顔がある。匂いを嗅いでくるようで気持ちが悪い。そのままゆっくりと喉元まで移動してくると、ヌメっとした感触がして思わず肩が跳ね上がった。

鎖を頭上に刺さっている杭に引っ掛け、鎖を持つ手を離したと思ったら、今度はスカートの中に手を突っ込んできた。肘。太股。腰。産毛を逆撫でてくる手が手袋越しでも気持ち悪い。

非常にまずい予感がするが、些細な抵抗ではどうにもできない。太股をまさぐっていた手がゆっくりと足を持ち上げる。足の間にあいつの体が割って入ってくる。ズボンの厚い生地越しに局部を擦り付け、耳元で荒い呼吸を繰り返す。私は目の前が真っ黒になりそうだった。パニックになりかけているのかもしれない。もしくは自分の心を守るために意識をシャットダウンしようとしているのかも。とにかくあいつはズボンのチャックを下げるとおもむろにその下の陰茎を取り出して、私のショーツに擦り付けてきた。何度も何度もショーツ越しに私の局部を撫で上げてくる。最初はパニックになりかけていた私だったけど、この状況に慣れてくると悔しいが、すこし感じてしまった。

あいつはショーツに手をかけて腰下まで下ろすと、今度はショーツの隙間から陰茎を差し込んだ。私の膝に手を置くとそのまま両足を束ねるように寄せて、そうなるとあいつの陰茎を太股で挟むような体勢になり、あいつは気持ちがいいのか呼吸を荒らげながら動きを増していった。

あいつの陰茎が局部に擦れる度にえも知れない快感が襲ってきて怖いのと同時に頭が痺れた。何度も撫で上げられ私とあいつの間で水音が響き始めて、意に反してえっちな声が漏れてしまう。それに余計に興奮するようで、あいつのあそこは大きくますます怒張してきた。それ以上のことが起こりそうで怖かった。早く終われと願った。

あいつはいきなり腰を動かすのを止めると、何かを確かめるように自分の陰茎を持った。そして私の局部に押し当てる感触がした。生暖かい脈打つものが強く押し当てられてる。とてつもない恐怖を感じて、私は思わず叫んだ。実際は猿轡をされていて声は口の中に閉じ込められて大した声量にはならなかったが、それでも私が言わんとしていることは伝わっているはずだ。首を振り、肩で体を押し返すが意にも介さず、あいつは子供をあやかすように私の口元に指を持っていくとシーッっとやった。あいつは私の腰に手を回して力を込める。体を強く固定されて恐怖だけが積もっていく。

その時、ものすごい力で私の体の中に脈打つものが捻りこまれた。あまりの痛みに呼吸さえ忘れて背中を丸めた。足が行き場を無くしたように暴れて、指先に力が入る。痛みに耐える私を労るつもりなんて毛頭ないようで、欲望のままにあいつは私の体を所有してしまった。根元まで、あいつと体がぴったりとくっつくほど奥まで。そして一気に抜かれる。その繰り返し。肺が圧迫されるようで突き上げられるとその衝撃で喉から空気が抜けて変な音が出た。

痛みは我慢できる。我慢できる筈なのに目からはとめどなく涙が零れてきた。ただ悔しくて涙が出てくる。こんなクソ野郎のせいで私の初めては汚されてしまった。大切にしていたものを踏みにじられて悔しくない筈がない。

あいつはポケットから鍵を取り出すと何を思ってか私の拘束を解きだした。両手、それに首が自由になる。両手で作った拳で何度も叩く。けれど、そんな抵抗が応える様子もなく力尽くで私を床に押し付けると、また単調な動きを繰り返す。私の首元に顔を埋めながらあいつはますます息を荒らげていった。

早く、解放されたい。早く絶頂を迎えるなりなんなりして行為を終わらせてほしい。なんでもいいから終わってほしいと思うほど行為が続いた時、声にならないような、押し殺した声であいつが呻いた。私の両方の二の腕を強く掴んで力任せにピストン運動を繰り返す。3回大きく突き上げそして電池が切れたように静止した時にやっと私は終わったと思った。下半身は痺れてじわりとした痛みを感じる他に感覚が無い。

両手を掴む力がゆっくりと抜けてゆく。動く気力を無くした私の体の上にあいつの影が重なる。私の胸に頭をそっと乗せてくるあいつに私は信じられないという気持ちでいっぱいだった。あいつのアレは出口を塞ぐようにまだ私の中に入ったままだ。なのになんで一息ついてるのか。

空虚に何も無い天井を見上げている。静かになって初めて臭いに気づいた。この密室に閉じ込められた空気は明らかに異様だった。汗と血と何かの臭い。有機的な臭いが混ざりあって気分が悪くなる。この場所は異様だ。


*prevnext#
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -