Lonsdaleite15


2人のエージェントに引きすられる様に現れた斎にシモンズは驚いた。

「どうもー」

斎は両脇をエージェントに掴まれたままで間の伸びただらしない声を出す。少し前までは暴れてたが今はもう諦めている。

「斎、どうしてここにいるんだ?」

シモンズは当然そう質問する。それに斎は言葉を濁した。

「これにはふかーい事情がありまして」

サムやミカエラの視線を感じ気まずい思いをしながらも答える。

「そうか。こいつも一緒に連れていけ」

「ああ!ちょっと私は休暇中なんだけど!?バカー!」

問答無用に斎は車に乗せられた。サムとミカエラも別の車に乗せられる。サムの家からサンプルとして植え込みの植物から家具までいろいろなものが持ち出されるのをみて、斎は少し申し訳ない気がした。セクター7はサンプル品だ放射能だのとエイリアンの研究に対していまだに古臭いアプローチばかりしている。サムの両親はまた別の施設に連れて行かれるようだ。小さいチワワのモージョも首輪をつけられて連れて行かれている。斎がそれらの光景を窓から覗いていると車は突然走り出した。

おそらく基地に戻るのだろうと斎は大人しくしていたが、そのあとすんなりとは目的地に辿りつかなかった。サムとミカエラ、それとシモンズを乗せた車に問題が起こったからだ。全ての車が急ブレーキをかけて止まり、斎の周りが騒がしくなった。ウトウトしだしていた斎が面倒臭そうに外をみるとそこにオプティマスの姿があった。車の天井を剥がして無理やりに車を止めたらしい。

そういえば、と斎は思い出した。彼らが探していたメガネはまだサムが持っているのだろう。メガネがこちらの手に渡ったら彼らにとって不都合なのだろうことは容易に予想できた。組織の前に堂々と姿を現したオプティマスを思うと穏やかではない。事によっては種族間で戦争が起こるほど危険なことだ。

車から銃を構えて飛び出したシモンズの部下たちだったが、すぐにジャズに取り上げられてしまった。車の上で両手を上げて降参のポーズをしているシモンズを見て斎は見物だとばかりに車のウィンドウを開けて顔を出した。シモンズが汗をかくほど焦っているのは斎のいる場所から見ても明らかだ。

〈わたし達を見て驚いていないようだな〉

オプティマスは冷静に今の状況を解析すると言った。

「我々はエイリアンと会話をする権限は与えられていない。権限が無いとだけしか言えない」

任務に忠実なシモンズらしい台詞だ。舌足らずなのが実に残念だが。


「セクター7ってなに?彼らを何故知ってるの?両親をどこに連れて行ったんだ?」

サムがシモンズを質問攻めするが、シモンズはそれに答えるつもりはないようだ。

「質問はおまえじゃなくて私がする!」

シモンズは顔を歪めながら怒鳴った。

と、シモンズの背後にいたバンブルビーがシモンズにオイルをかけだした。その光景を目にして、思わず斎は噴き出してしまった。滅多に見れる光景ではない。シモンズはシャワーを浴びるように盛大に油にまみれている。

〈油をかけるのはやめろバンブルビー〉

オプティマスの言葉でバンブルビーは『仕方無い』と言いたげな様子でシモンズへの精神攻撃を止めた。シモンズはといえば折角のスーツが黒く変色してしまうほど油をかけられて、とても臭そうだ。近寄りがたい。斎はもしカメラを構えていたら連続シャッターをきって、記録に残しておきたいところだった。

斎が車が上下に揺れるほどあまりにも気持ちの良さそうな笑い方をするものだから、シモンズは何か言いたげな目を向けた。目を向けただけだが言いたいことは大体分かる。斎は耐えられないとばかりに口元を抑えて、出来るだけ笑顔を隠した。普段の行いが悪いからこういうところでツケが回ってきたのだと、斎は自分を棚に上げて思っていた。

「服を脱いで」

ミカエラは唐突にそう言う。その手には手錠が握られている。

「何故だ」

「私のパパを侮辱したからよ」

シモンズは大きなエイリアンの方をチラと見、そして思い切って服を脱ぎだした。そして現れたのはセクター7とプリントされた下着だ。斎がまた笑い出したのはシモンズの耳にも入ったが怒鳴る気力も起きなかった。

「いい趣味ね」

「こんなことをしてただで済むと思うなよ」

いかにも小物臭いセリフなうえに履いているパンツが賑やかなシモンズはなかなか様になっている。

サムはシモンズのスーツから身分証を取り出した。

「ふーん、何をしても許されるお墨付き、ね」

そう小馬鹿にしたように言うとシモンズの身分証を川へ向かって投げ捨てた。

シモンズが柱に繋げられると、斎はご機嫌の様子で車から降りてきた。

「これは減給ものですねえ」

「減給されるのはお前の方だ、馬鹿者!」

「私はもともと休暇中でしたからね。プライベートの時間に何しようと私の勝手というものでしょう」

「屁理屈をこねるな」

シモンズとそんなやりとりをしている斎をみてオプティマスは問いかけた。

〈君も彼らの仲間だったのか?〉

そういえば斎も自分たちを見ても驚いていなかった。斎がこのスーツの一味の仲間なのだとオプティマスは理解した。斎はオプティマスを見上げる。

「斎!そいつらと話すな!」

オプティマスの問いかけに斎は答えようと口を開けたが、言葉を発する前にシモンズが大声で忠告した。斎はシモンズの方をチラリと見、またオプティマスに向くと「そうだよ」とお構いなしに答えた。

〈きみはバンブルビーと出会う前にディセプティコンといたらしいな。それも親しそうだったと聞いている。きみは誰の味方なんだ?彼ら人間か?それともディセプティコンか?〉

「…それを今聞いてくるってことは、セクター7とディセプティコンが裏で繋がってるか気にしてるんだね?心配しなくてもそれは杞憂だから安心してくれていい。私はともかく彼らは君たちとディセプティコンの見分けすらついてないよ。それに私は人間の味方だよ」

今のところは。そう斎は付け足すと微笑んだ。今はそうだが、これからどうなるか分からない。人間だから人間の味方をするのは至極当然のことなのだろう。それにバリケードたちディセプティコンは自分の助けなど必要としていない。斎は考える。だけど、もし、ディセプティコンが自分の助けを必要としたらそのときはセクター7を飛び出すだろう。

彼女は嘘は吐いていない。オプティマスは納得した。「今のところは」という言葉にはひっかかる部分もあるが。

斎としては話しを続けたかったが、シモンズがそれを許さなかった。チラと見たシモンズの顔は過去今までに見た中で最高の怒り顔でさすがの斎も口を閉ざした。大人しく従うのは癪に障るが、これ以上火に油をさすのは止めといた方がいいだろう。

「斎、それ以上この大きいお友達と話しをしてみろ?減給や始末書どころの話じゃなくなるからな?」

「はいはい」

斎はくるっと反対を向くとその場から離れていった。


その一方でサムとミカエラの間では小競り合いが起こっていた。ミカエラが実は前科持ちだったことはばらされた本人だけじゃなく、ミカエラに憧れを抱いていたサムにとっても少なからずショックだったのだ。そのショックを正直なサムは上手く隠すことができなかった。サムよりも精神的に大人なミカエラはそのサムの変化に気づかないわけがなかった。

サムはミカエラと話し終えると車のボンネットに座っている斎に気付いた。

「何か言いたげだね」

サムの顔を見て斎は言う。サムは心情と顔が完璧にシンクロしているようで、とっても分かりやすい人間だ。

「そりゃ、そうさ。こいつらの仲間だって黙ってたんだから」

「言う必要が無かったからね。それに私の考えを一から十までわざわざ丁寧に教えるほど、私はあなたに興味がなかったから」

斎のこの言葉にサムは唖然としてしまった。斎が本当にそう思っているのがサムには分かってしまったし、それを包み隠さずに普通に口に出してしまうことに単純に驚いた。

「失礼だったかな。でも、きみ達の家を荒してしまったのは申し訳ないとは思ってるよ。ほんと」


〈オプティマス、敵が来る〉

アイアンハイドが警告した。

道路の先の暗がりを車のライトが無数に照らしているのが斎にも見えた。

オートボットの面々が次々と車に変形して走り出す中、オプティマスはサムとミカエラを自身の手の上に乗せる。そして斎の方へ声をかけた。

〈どうする?君が良ければ我々と一緒に来ては?〉

「ああ、別に気を使ってくれなくてもいいんだよ。私には私の仕事があるし、それはきみたちもそうでしょう」

機嫌の悪いシモンズと一緒にいるのは嫌だが、自分はあくまでセクター7の人間というのを斎は忘れてはいない。


オプティマスが去ったあとシモンズは斎に話しかけた。

「話からすると他にもエイリアンと接触してるようだな?」

シモンズなら絶対にその話題に触れてくると思っていた。

「どういう事か今回のことも含めてきっちりかっちり説明してもらおうか」

「この慌ただしい時に説明することじゃないと思いますがね。でも、せっかくですから説明しましょうか。私がただエイリアンと戯れてたわけじゃないってこと分かってもらえると思いますよ」

そして斎は話し出した。今地球に足を踏み入れたエイリアンには二つの勢力があることや彼らの探し物の話。オートボットは人間に比較的友好的である、と自身の憶測も交えて。


そのあとセクター7の援軍がきて斎の耳にサムとミカエラ。そしてエイリアンの一人の確保に成功したという情報が届くのにそう時間はかからなかった。


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