Lonsdaleite14


メガネを探してオプティマスたちに渡すだけ。簡単なおつかいだ。

ミカエラと斎はサムにオートボットたちを見張っていてくれと言われてそうしていた。だが、オートボットたち、特にオプティマスは焦っているようでじっと待っていてはくれなかった。すぐにトランスフォームするとサムの家の庭にズカズカと、その巨体で入っていった。

サムは父親を家の中に引っ込めさせると、やってきたミカエラと斎に声を張った。

「見張っててくれって言ったじゃないか」

「言われた通りに見張ってたよ?」

斎は見張ってはいた。見張る他は何もしていないが。

「見張ってるだけじゃダメなの!」

「ごめんなさい。でも彼ら急いでるみたいで…」

ミカエラは謝るが、そもそもこのオートボットたちが素直にミカエラや斎の言うことを素直に聞いてくれるとは思えないと、サムは今更ながら思った。それにサムは2人を責める余裕も無くなった。自分よりも遥かに大きいロボットが父親が大事にしている芝生の上を踏み歩いているからだ。芝生の上に足跡が思いっきりついている。サムは慌てたが、慌てるだけじゃどうしようもない。そうこうしている内に、庭の中央のガーデンテーブルが破壊された。

「ああ!だめ!だめだって、庭が!」

無情にも敷石が割れる音もした。

〈すまない〉

とオプティマスが謝るが、サムは気にかける事が沢山あってろくに言葉を返せなかった。

今度は家の中から出てきたモージョがアイアンハイドの足のまわりをぐるぐる回りだした。その様子を視界に捉えてサムは嫌な予感がした。

「モージョ?やめ…」

サムが言い終わらない内にモージョは後ろ足を上げてアイアンハイドの足におしっこをかけた。アイアンハイドは片足でこの小さいチワワを脇へ跳ね飛ばした。その様子にサムは慌ててアイアンハイドの前に飛び出すとモージョを捕まえて抱えた。アイアンハイドは両手の武器を突き出す。

〈害獣がいるようだが、駆除するか?〉

「だめだめ!モージョはうちのペットだよ。ネズミじゃない」

サムは必死に叫んだ。

〈俺の足に潤滑油をかけやがった〉

「おしっこかけた?悪かったよ、雄の優位行動なんだ。メ!モージョ!」

〈メ!モージョ〉


「なんだあれ…」

斎はエイリアンロボットと一般人のやりとりを見て呟いた。


「10分、いや5分でいいから大人しく待ってて」

サムはそういうと家の中に入っていった。

が、オートボットたちは1分も待てないようだ。オプティマスの言葉にオートボットたちはおのおの家の中の様子をうかがいだした。下手をしたら窓の外に目を向けたら巨大ロボットの顔面が!とホラー映画さながらの事態になるだろう。それはそれで面白いと思った斎は特に何もせずにこの光景を眺めていた。

サムは自室に入ると眼鏡を探して部屋の中を慌ただしくあさりはじめた。が、眼鏡は見つからなかった。眼鏡は大学にいつも持って行っているポーチに入れていたのだが、そのポーチごと無くなっていた。眼鏡を無くすことはあるかもしれないが、ポーチを無くすのはおおよそ考えられない。どこかに必ずある筈だと探し続けていると、部屋の窓の外にミカエラの姿が現れた。サムは驚いたが、なにもミカエラが足のないオバケになって飛んできたわけじゃない。オプティマスの手の上に乗ってやってきたミカエラはサムに手を貸してもらって部屋の中に入った。

「私も手伝うわ」

「助かるよ…あ、ちょっと待って!」

サムは慌てて部屋の中をかきまわして、箱に何か詰め込むと棚の中に押し込めた。

「どうぞ」

その様子をみてミカエラは少し呆れた顔をしたが、すぐに作業に取り掛かった。


〈見つかりそうか?〉

窓の外でオプティマスが言う。探し出してまだ幾分も経っていない。

「10分も待てないの!?きみたちを見たら両親は失神しちゃうよ!お願いだから大人しく待ってて!分かった?」


〈オートボット、退却せよ〉

体が大きいながらに慎重に後退していたようだったが、ラチェットがうっかり電柱に引っかかり転んでしまった。電線が断線し、ラチェットが転んだ拍子にガラスの温室を潰してしまった。大惨事だ。

「ビリっとした。ずいぶん危険なエネルギーだ。気を付けるんだ」

サムの家だけでなくこのあたり一帯の住宅が停電に見舞われた。斎は立ち上がったラチェットに向かって興味を隠すことなく尋ねた。

「危険…?頑丈に見えるきみたちでも電気は危険なものなんだね」

〈この程度の電圧では少々痺れるだけだが、余りにも強い負荷が掛かると機能が停止することもある。それでも人間に比べたら頑丈だがね〉

「そうだろうね」

斎は断線した電線から火花が飛んでいるのを見て後退した。

家の中では停電したことでサムの両親がサムの部屋に向かっているところだった。オプティマスたちはサムに眼鏡の探索を続けさせるためにこれでもかというくらいの照明をたいている。サムの部屋の中は球場の巨大な照明を取り付けられたかのように明るく照らされていた。

「何やってるんだ!両親が来ちゃう!早く消して!」

両親がやってきたことに気付いたサムは精一杯訴えた。扉の外では既に両親の声が聞こえてくる。

「サム、いるのか?」

「うんパパ、いるよ」

そしてオプティマスの方へ向く。

「消せったら!」押し殺した声で。

「何をしているのかしら。大丈夫なの?サム」

今度は母親の声だ。扉を開けようとしている。鍵をかけていたが、鍵をかけないのがこの家のルールだ。

「何故鍵をかけてるんだ?早くあけなさい!」

オプティマスはやっと照明を消すと姿を隠した。


隠れているつもりなのか車に変形した彼らは庭に堂々と駐車していた。斎はその光景を『車の展示会みたいだ』と思いながらもそのシュールな状態を指摘した。

「きみたちの擬態能力は凄い。だけど、これじゃあ全然隠れてる内に入らないと思うよ」

〈そうなのか?〉と、ジャズ。

「まぁ、そりゃね。自分家の庭に知らない車が何台も止まってたら誰でも怪しむって。早く家の影に隠れないと

斎は家の死角を指さす。


「さっき確かに光っているのを見たんだが…ああ、庭がぐちゃぐちゃだ!地震のせいか?それにしても酷い有様だ」

二階の窓から顔をのぞかせてサムの父親は言った。その真下にはエイリアンがいるとも知らずに。


なんとかその場をしのげたと思ったが斎の知らないところでまた何か問題が起こったようだ。オプティマスがこの場からの撤退を指示したのだ。それも早急にと。

「撤退?何かあったの?」

〈こちらへ向かってくる複数の人間がいる。センサーが告げている。我々がここにとどまるのは非常に危険だ〉

「そう。じゃあ私はここに残るよ。サムたちを待たないと」


両親を誤魔化すことに成功したサムは一階へ降りてきていた。両親の記憶通り、眼鏡の入ったポーチは一階のテーブルに置いてあった。あんなに真面目に自分の部屋を探し回っていたのが馬鹿らしくなる。


と、玄関のベルが鳴った。こんな夜中にくる客に思い当たる節は無い。サムの父親は訝しがりながら玄関の外を受け口から覗くと無駄に目力が強いスーツ姿の男がいた。


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