アルカロイド


R-18

気持ち悪い。痛い。気持ち悪い。気持ち悪い。異物が体の中に入ってくる。冷たいような温かいような気味の悪い温度が私を包みこんでいる。破瓜の痛みに足を握り締めた。耳をすませれば肉を割く非情な音が聞こえるかもしれない。体に力を入れれば余計に痛むのは分かっているが、力が抜けない。体に入った無機物は冷酷で私の肉と血を押しやって無理矢理奥へやってくる。

「やだもうはいらな……っ」

止めてと懇願しても相手は聞いてくれない。ずっと「嫌だ」と言っているのに。こちらの意思などお構い無しで、力任せに蹂躙してくる。

自然と涙が流れてきた。感情的というよりか、生理的な涙が。

薄暗い空間に金属が軋む音が響いている。硬く目を瞑ると『そもそもどうしてこんなことに』と、数刻前の出来事へ意識を飛ばす。少なくとも今の状況より幾ばくかマシな状況だった。それでも最悪の中の少しマシという程度だが。


私はディセプティコンに捕虜として捕らえられていた。

捕まったのは私だけでなく、他にも大勢いた。私たちは政府やオートボットを牽制するために、そして、労働力として連れ攫われたようだった。国家の下で研究員として働いていた私たちは彼らにとって丁度いい人質にもなったし、便利な手足にもなったというわけだ。

ディセプティコンのボスは従順にしていれば命を助けると言った。それを信じて他の人間と同じように私も従っていたのだ。皆、それぞれその不幸に適応していった。

そんなおり、また不幸が私を襲った。不幸というのは気まぐれなようで、泣きっ面に蜂さながら、容赦なく慈悲もなくやってきた。

私がディセプティコンの下級兵のメンテナンスを任されていた時だった。普段そこには姿を現さない人物がやってきた。スタースクリームだ。彼はディセプティコンの中でも特に評判が悪くてとても近寄り難い人物だ。部下にも嫌われているのだから余計に印象は悪く、それに最近他のエリアで私と同じ人間を殺したらしい。噂だが、本当だとしたら恐ろしい。自分に危害を加えてくる可能性がある生き物には近寄らない方がいい。

そう思っているのは他の人間もそうらしく、作業の手を止め隠れるように控えていた。ビーコン達もスタースクリームの出方を伺っているのか話し声が小さくなった。

スタースクリームは部屋の中をぐるりと見回し、何か考えているようだった。

〈そこのお前〉突然スタースクリームがそう発した。

誰しも自分のことではないように、と思っただろう。スタースクリームに呼ばれて良いことなど何も無い。私もそう思いながら、その一方でスタースクリームが自分を呼ぶわけが無いとタカを括っていた。そのせいかもしれない。自分が呼ばれていることに気づくのに少し時間がかかった。周りの視線という視線がこっちへ向いていることに気づいて、スタースクリームの方へ向くとあちらもこっちを見ていた。

〈そうだお前だよ。46番、こっちへこい〉

46番というのは私のここでつけられた番号だ。捕虜の人間を管理するためにとつけられた番号はここでは私たちの名前に等しく、ディセプティコンたちは私たちを番号で呼ぶ。

指の先で呼ばれて私はおずおずと前へ出た。スタースクリームが膝をついて手を伸ばしてきたものだから、私は恐ろしさのあまりに身を固くして構えてしまった。

〈怖がるなよ。なあ?別に殺そうってわけじゃない〉

スタースクリームは尖った指先で私の髪の毛を弄りだした。

〈お前だけ髪?ってやつが真っ黒だな。アジアの人間か?〉

「そう、です」

〈はー、なるほどな〉

何がなるほどなのか。こんな髪の色だけで目をつけられてしまったのを考えると不服でしょうがないのだから、ひとりで納得されても困る。

〈お前は人間の基準で美人か?〉

「え?」

私はいきなりの質問内容に驚いて馬鹿みたいな反応をしてしまった。質問の意味は理解できるけどどう答えていいものか。ブスだと答えれば景観が損なわれるからとかそういう理由で殺されたりするのだろうか。だからといって自分で自分を美人と言いきれる程自信過剰ではない。

答えに躊躇っていると、スタースクリームは待ちきれなかったのかその場にいた別の人間へ声をかけた。

〈そこのお前。お前は人間の男だよな?お前からみてこいつは美人か?どうなんだ?〉

「……美人、だと思います」

絞り出したような声でその人間は答えたのだ。私は非常に複雑な気持ちだった。お世辞なのだろう。余計なお世話だと言ってやりたい気もした。

〈そうか。なら決定だ〉

決定。何が決定したのか。何も知らない私は悠長にスタースクリームを見ていた。と、髪を遊ばしていた指が乱雑に私の体を掴んだ。心底驚いた。叫んだり抵抗する間もなかった。

そして連れてこられたのは知らない暗い場所だった。

私はそこで降ろされるとスタースクリームから恐ろしい言葉を聞いた。スタースクリームは私を〈自分の所有物にする〉と言ったのだ。その時はこの言葉にピンとこなかった。だけど、嫌でも思い知ることになる。

私は無理矢理床に押し付けられた。呆然と事態が呑み込めていない私の服を剥がしながら、スタースクリームは淡々と自分の考えを言葉にしていった。彼は気まぐれに人間の女が欲しくなったらしい。それは見栄えが良ければ別に誰でも良かったらしく、私は運が悪く、本当に運が悪くスタースクリームに目をかけられてしまった。

そこまできてやっと相手の言葉の意味がじわじわと飲み込めた。その時は驚愕していた。だってまさか金属でできた地球外の生物に性欲のはけ口にされるとは思っていなかったから。

〈人間と俺たちは敵同士だ。だからこそ、この行為に意味はある。人間からしたらさぞ屈辱的だろうな〉

嫌悪を催すような笑みで私を見下ろしながらスタースクリームは言う。

〈おまえを俺の番いにさせてやる〉



そして今。

スタースクリームは大きな手で私の肌を撫でている。それが不器用なものだからタンパク質でできた柔な肌に赤い傷跡を残した。

体をくの字にして抵抗していたがそれもかなわなかった。相手が人間ならまだ抵抗のしようがあったかもしれない。スタースクリームは硬い装甲の隙間からエイリアンらしく金属の触手を這わせると、私の首やら腕を拘束した。

異物が身体を内側から圧迫してくる感覚。その感覚がとうとう登り詰めると、スタースクリームはひと息おいた。

〈気分がいい〉

湿度を帯びた吐息が耳にかかる。身震いして口内の唾を呑み込んだ。

〈はぁ、おまえ、なんでそんなに死にそうな顔してんだ?〉

と、嘲笑を孕んだ声。金属の指がぺちぺちと頬を叩く。

〈そんなに嫌か?なあ〉

自分の中で緩慢と動き出すのを感じた。太股の内側に金属が擦れる。またじわりと痛みが広がる。

「嫌……いたい」首を横に振り切に願う。

〈そうか。お生憎だが俺は最高の気分なんだよな〉

目をつぶった音だけの空間にあるのはスタースクリームが快感をむさぼる音。それと水音。そうだ。悲しいことに私の意志に関係なく、体は勝手に異物から守るためにヌルヌルとした液体をだしていた。恥ずかしい。だけどその事実に赤面するほど気持ちに余裕は無く、事実だけが淡々と脳に刻まれていく。

スタースクリームの動きは次第に大きくなっていった。スタースクリームの口から愉悦が音となって零れはじめた。彼は機械だけどこの行為に快感を感じている。忘我しているようにただ快楽に突き動かされているようで行為はみるみる激しさを増していく。内蔵がぐちゃぐちゃになりそう。これ以上激しくなったら身体の内側からバラバラになってしまうかもしれない。そう思わせるほど貪欲だった。

私の喉は震えていて嗚咽が零れていた。その声は時折衝撃に歪む。体が痛くてたまらなかった。早くこの時が終わればいいと、ただひたすら身勝手で傲慢な目の前の存在が満足して開放してくれるのを願った。

「いや…ぁ、…ぐ、ぅ」

泣き声が漏れている口を自分で塞いだ。

恐る恐る目を半身へ向けると、やはり触手のような人並みに太いコードが自分の太股の間から伸びているのが見えた。それはミミズかイモムシのように意志を持って動いていて気味が悪い。そんなものが自分の身体の中を出入りしている。

スタースクリームは私の両足を束ねて掴んだ。ちょうど太股でその太いコードを挟むような体勢になる。コードが上下し太股に擦れる度にそこが摩擦で熱を帯びて痛んだ。

〈……出すからな〉息を乱しながらスタースクリームは言った。

「え、待って……やだっ」

出すってなにを?自分の中で恐怖が膨らむ。

動きが激しくなりスタースクリームは自身を激しく打ち付けてきた。痛い。衝撃の度に体が内側から圧迫されて喉から音がでる。スタースクリームが床に爪を立て引っ掻く音がした。悩ましげに呼吸している。

〈は…ぁっ〉

スタースクリームはひときわ強く奥まで穿つと動きを止めた。その瞬間、体を縛っていた拘束が緩んだ。スタースクリームは私の中で果てた。身体が全体的に湿っぽくて暑いのに、血の気が引いたように一瞬寒気がした。

体の中が溶岩を孕んでいるみたいにじわじわと熱くなる。体の奥の奥からドロっとしたもので満たされていくのが分かった。気持ち悪い。スライムのような液体がダクダクと注がれていく。その感覚に身震いした。

「やだ…うそ、でしょ…」

私とスタースクリームを繋いでいるコードはビクビクと痙攣している。ゆっくりと味わうように体を揺らしながら、スタースクリームは体を震わせている私を宥めた。

〈いい子だ〉その声は今までとはうって変わって甘く鼓膜を震わせた。

スタースクリームは私の髪を梳く。

グポっと酷い粘度の高い水音がした。下腹部にゾクっとした感覚が走る。身体が蝕まれるような圧迫感が無くなった。

〈お前は俺のものだ。毎日こうして愛してやる。何か問題があるか?〉

問題なんか無いだろうと、タカを括っているのだろう。随分傲慢なことだけど、自分はそれに反論するほど元気でもなかった。

それに、反論してもこの先の地獄の日々から逃れることは出来ないともう悟ってしまった。もう以前のようには生きていけない。

スタースクリームは何度も何度も愛撫を繰り返す。それがただただ虚しくて、身体の暑さとは裏腹に心だけは深く沈んで寒かった。


*prevnext#
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -