Lonsdaleite13


少し前までオンボロカマロだった自分の車が新型カマロにランクアップしたお陰で、サムは今日一日の悪い出来事を忘れたように上機嫌だった。それにミカエラと密着して一緒に同じシートベルトをかけているのだから。

「で、何であの悪いロボットといたわけ?」

斎はサムの言葉に耳を傾ける。運転席に座っている彼女は外の景色をぼぉっと眺めていた。

「ETとかUMAを探すのが趣味でね。たまたま見つけたのが彼で、彼らの存在に気付いたせいで捕まってた」

斎はいちいち説明するのも面倒だとなあなあに説明した。大体合ってれば問題無い。

「じゃあ、初めて会ったときに僕の子孫の事を調べてたのを学校の課題とか言ってたのも嘘で、本当はエイリアンを探してたってこと?」

「よくそんな昔のこと覚えてるね」

昔といっても2年も経っていない。

「確かにあれは嘘だった。だってエイリアンを探してるから手伝ってくれなんて…頭おかしい奴だと思われるでしょ?」

「それは、確かに」

エイリアンの存在を知らなかった頃ならそう思っただろう。斎の言うことは一理あるとサムは理解してくれた。もし自分が斎の立場なら同じように素直に話すなんてしなかっただろう。

「エイリアンの目的を知ってる?」とミカエラ。

「さあ」斎はとぼける。「私じゃなくて黄色の彼に聞きなよ」

斎は投げやりにそう言うと窓際に膝をついて目の前で勝手に回っているハンドルへ目を向けた。

そんな時斎の目についたのは、ホーンボタンのマークだった。顔に見えるその意匠は、バリケードやスタースクリームが付けていたものとは異なっている。エイリアンには派閥があるのだろう。二つ、若しくは複数。それを視覚的に表しているのがこのマークなのだと考えると実に分かりやすくて面白かった。

何を考えているのか分からないカマロは見晴らしの良い高台までくるとやっと止まった。カマロの案内でここまで来たが周りには変わったものは無い。

カマロから降りたサムとミカエラは空を見上げた。周りの風景は変わっていないように見えたが、空が妙に明るくなったからだ。空から落ちてくる飛来物は2人に危機感を持たせるほどの勢いと大きさを持っていた。

「目の前で青春が繰り広げられているねぇ。…吊り橋効果って知ってる?」

カップルのようにくっ付いているサムとミカエラを見て運転席の斎は言った。

〈"少年が男になる時がきた"〉

ラジオから流れた音声に斎は喉を鳴らして笑った。

空から降ってきた隕石の一つがそう遠くない場所に落ちて、斎たちのいる場所にも振動が伝わった。その場所を高台から眺めると草の生えていた地面はえぐれていて、隕石は半分土に埋まっていた。隕石の表面は鈍い銀色、石というより鉄の質感を持っていて金属の卵のようにも見える。それが動き出して表面の凹凸に添って展開していって、それでその飛来物全体がカマロと同じエイリアンなのだと理解できた。楕円形のオブジェのようだった飛来物はすっかり二本足のロボットの見た目になると、周りを見渡しそして道路の方へ向かっていった。

「おふたりさん、場所を移動するよ。ここはエイリアンと密会するにはちょっと見渡しが良すぎるからね」


3人と1台は再び移動をした。次の目的地もこのカマロ次第だ。

周りの風景は変わり、今度は人気の無い暗い、どこだか分からないがとにかく人目に付きにくい場所にきた。カマロはそこで停止すると3人を下ろして退いた。自動車の音がし、町へ続く道から続々と見た目もバラバラな車が集結してきた。

〈アーチボルト・ウィトウィッキーの子孫、サミュエル・ジェームズ・ウィトウィッキーはきみか?〉

「…うん」

いきなり名前を呼ぼれてたじろんだサムは少々情けない声で返事をした。


一般人とエイリアンの接触の場に居合わせるというのはそうあることじゃない。斎は自分がはじめてエイリアンに出くわしたときにサムやミカエラと同じように怖がっていただろうかと考えた。とにかく目の前の光景は斎にとって興味を引くものだった。

斎がトランスフォーマーたちが自己紹介をしている間、人間2人へ注意を向けていると彼女の方へ無機質な視線が向かった。


〈君は‥‥?〉

オプティマスは斎の事に気づいて訝しげな声を出した。見た目こそ普通の人間のそれだが、人という有機物の器にスパークが感じられた。今まで色んな惑星の生物を見てきたが、前例は無い。オプティマスは膝をついて斎へ向く。

「ハイ」

それにしても落ち着き過ぎている。怯えるでも驚いてるわけでもない。オプティマスは訝しがった。

〈差支えがなければ名を教えてくれないか?〉

「斎だよ。斎・ロンズデーライト」

〈アレン・ロンズデーライトの子孫だね。アレンはアーチボルト・ウィトウィッキーと共に北極に上陸した船の乗組員で、その後の来歴は不明…となっている〉

グレーシルバーのソルスティスだったトランスフォーマー、ジャズが言う。もう調べたのかと斎は目を向ける。今のネットが普及している時代ではプライベートなどチリのようなものだ。

〈ここにいることといい、なかなか興味深いお嬢さんじゃないか〉

「天からの訪問者に興味を持ってもらえて光栄だね」

〈オプティマス、この子は見た目こそ人間だが、我々と通ずるものを感じる〉

黄色いボディのラチェットの言葉に斎は素っ頓狂な声を出した。

「というと?」

〈人の身体に我々トランスフォーマーと同じ魂があるようだ」

「魂とはまたファジーな事を言うんだね」

〈人の言葉ではこれ以上に上手く表現できないのだ〉

「なるほどね」

そういえばバリケードやスタースクリームもこれに関係するようなことをよく言っていたのを斎はふと思い返した。確かスパークだったか。


〈本題に戻ろう〉

とオプティマス。

〈我々はこの地球にあるものを探しにやってきた。我々の種族の未来を左右するようなとても重要なものだ。オールスパークというものだ〉

オールスパーク。聞いた名前だ。斎は口をはさむことなく黙って聞き続ける。

〈オールスパークは私たちの種族の命の根幹のようなものだよ。〉

ラチェットが説明を添えた。

〈それをメガトロンよりもさきに見つけなくてはならない〉

「メガトロンって誰?」

斎は好奇心のままに聞いた。

何の気も無しに斎は聞いたつもりだったが、オプティマスからしたらそうではなかったようだ。オプティマスは躊躇いがちに説明を始めた。それと同時にオプティマスの目から出た光線が周りの風景を変えていった。それはプロジェクションマッピングよりもはるかに鮮やかで、もとあった景色など跡形もなく消えて全く別の場所になってしまった。

〈メガトロンとわたしははかつて兄弟だった。だか裏切られた。メガトロンはその力をもってこの世界を支配しようという欲望にかられたのだ。我々の種族はそのせいで二つの派閥に分かれた。我々『オートボット』とメガトロン率いる『ディセプティコン』に。私たちは戦うことを強いられた〉

無機質な世界の戦争を写していた。地表が割れそこからは赤い炎が立ち昇っている。機械の残骸、たぶん彼らエイリアンから見たら死骸と呼べるものが無数に転がっている。そして奥に見える凶悪なフォルムのエイリアン。見覚えがある姿に斎は心底驚いた。NBE-1だ。あの地下サイロで今も凍っているだろうアイスマンがまさかディセプティコンのボスだったのだから。バリケードたちのもう一つの探し物は彼らのボスだったのだろう。なかなか面白い、もといまずいことだ。彼らの探し物が一か所に集中しているのは非常にまずい。

〈そして何百万年経った今でも戦いは続いている。終わりのない果てしない戦いの果てに故郷である星は資源が枯渇し滅び、わずかに残った者は戦いから逃れるために星を脱出した。故郷を生き返られるにはオールスパークの力が必要なのだ〉

映像の中のメガトロンは一人のトランスフォーマーを引き裂くと雄たけびをあげた。そしてそこで映像は止まり、もとの閑静な人間の世界に戻った。

〈メガトロンがオールスパークを手に入れたら俺たちの種族の未来はあいつに支配されてしまう。それだけは決して許せない。それに俺たちだけじゃない。この地球の生き物をメガトロンのやつが放っておくはずがないからな〉

彼らの中で一段と物々しい風貌のアイアンハイドが付け加えた。

〈メガトロンは我々よりもさきにこの地球へ降り立った。だが、事故があったおかげでメガトロンは氷の大地に墜落し、氷漬けになり機能不能になったのだ〉

オプティマスは続ける。

「それを僕の先祖が見つけたんだね?」

サムはやっと理解できたとばかりに声を張り上げた。

〈そうだ。きみの祖先は北極でメガトロンを見つけ、接触してしまった。その時にメガトロンの機能の一部が作動してしまい運悪く視覚を失ってしまったのだ。だが、そのかわりにキューブのありかを示した物が残された。それがきみの持っているレンズだ〉

「レンズ…眼鏡のことか」

〈オールスパークはまだこの星のどこかにある。だがその信号がキャッチできない。何かに阻害されているのだろう。だから我々がディセプティコンよりも先にオールスパークを手にするためにはその眼鏡が必要なのだ〉

「その眼鏡、持っているわよね?」

ミカエラが重鎮とした空気の中サムへ向かって言った。



サムの家にある眼鏡を取りに行くことになった一行。サムとミカエラはカマロの姿に戻ったバンブルビーに乗り込んだ。周りは眼鏡を取りに行くと意思が固まっている中、斎は気もそぞろだった。オプティマスの説明を聞いて今すぐにでもダムの基地へ戻りたいとばかり思ってしまっている。それに彼らに自分の事を詮索されたら面倒臭いことになる。それこそ彼らの探し物のありかを知っているのだから眼鏡を手に入れる必要が無くなる。

斎にとってオートボットとディッセプティコンの派閥の違いなどどうでもよく、エイリアンである以上彼らもまた人間の敵になりうると考えていた。オートボットにとってディセプティコンは敵だろうが、だからといって善悪を決めつけるのはまだ早い。もしかしたらオートボットの方が悪いやつらなのかもしれなかった。確かにディセプティコンのバリケードやスタースクリームはとても人類に友好的とは言えないが、オートボットもそれ以上に人類に危害を与える存在になるかもしれない。その可能性があるうちは信用ならない。

〈よお。黄色のカマロなんて止めて俺にしとけよ〉

不意に斎の横に止まったジャズはそう誘い文句を言って扉を開けた。斎は急な申し出に珍しくしどろもどろとした様子を見せた。

「あ…えっと、そうだね。そうしようかな」

斎には車の善し悪しは分からないが、サムとミカエラの邪魔をしては悪いだろうとは思った。邪魔にならないにしても、目の前でメロドラマが繰り広げられでもしたら斎の精神衛生上とても良くないのもある。

〈"酷い!私のことは遊びだったのね!"〉

バンブルビーがどこから拾ってきたのかラジオから音声を流す。

〈人間の言葉でよく言うだろう。ケツの青いガキにはまだ早いって〉

「大げさすぎ。早く行こ」

斎はジャズに乗り込んだ。


普段なら興味本位に質問を投げかける斎だが、今はその余裕がなくだんまりだった。冷静に考えれば早く彼らから離れた方がいいのだろうが、怪しまれることなくこの場を離れるのは難しいだろう。何か、彼らの注意が自分から離れたときに逃げ出せたらいいのだが。

〈質問しても?〉

ジャズは話しかける。

「私で答えられることならどうぞ」

〈バンブルビーからきみとディセプティコンが一緒にいたって聞いた。きみは、ディセプティコンと何か関係が?〉

「関係あるか無いかと聞かれたら、ある」

〈隠さないのか〉

「隠す必要が無いからね。私と彼らは運悪く以前から認識があった。それだけだよ」


〈そうか…爪を噛むのは癖?〉

ジャズに指摘されて斎は自分が爪をかじっているのに気付いた。

「ああ、クソ」

〈お嬢さんの言葉使いじゃないな〉

「そりゃお嬢さんなんて柄じゃないからね」

斎はついと外へ視線を向けるとうつけたように呟いた。

「甘いものが食べたくなる」


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