report3





……


………!?


頬が痛い!



そう思って飛び起きると斎の目の前に女の子がいた。

こちらを見てニコっと笑っている。


「おはよう、お姉ちゃん!」

「ああ…おはよう。」


頭がボーっとしている。
とにかく自分に何が起こっているのか把握できてない。

頬が痛いのは、この女の子がつまんだからだろう。
そんなのは分かりきっている。
で、この子は誰なのか。
そして ここは何処なのか。

戸惑う斎の目に花が沢山の花が映った。
何で自分が花畑にいるのだろうと斎は静かに混乱する。


「ここ、何処?」

「ソノオの花畑 だよ。」


もしかしたら天国なんじゃないかと考えたけどそんなことはなかった。


どうやらアブソルに任せていたら、フタバとは逆の方向に来てしまったらしい。
斎は花畑を注意深く見まわしたが、アブソルの姿は見当たらなかった。


「私のポケモン、どこに行ったか知らない?」

「えーと…あの黒い子のことだよね。あっち!ソノオタウンの方に走って行ったよ。」

元気に答える女の子に斎は微笑んだ。


どこの子なのか知らないけれど斎は女の子と一緒にソノオタウンに向かうことにした。


ソノオタウンは花に囲まれた綺麗な町。
町の中にもいたるところに花を抱えた植物が涼しげ風に揺られていた。

女の子の案内でソノオタウンに到着したものの、アブソルの姿は見つからなかった。


ガーデニングショップの人がアブソルらしきポケモンが発電所に走っていくのを見たと言っていた。
斎はさっそく女の子の案内のもと発電所に向かうことにした。


「ごめんね。あっちこっち案内してもらって。」

「ううん。」

「ねぇ、持ってるそれ、何?」

「これ?」

女の子は宝物を見せびらかすように目の前で瓶を振ってみた。
中で綺麗な黄色をした液体がドロっと流れている。

「これね、ミツだよ。木に塗っておくとポケモンが寄ってくるの!」

「へぇ。ミツハニーとか寄ってきそうだね。」

他にもいろいろな虫ポケモンが集まってくるのだろう。
そんなことを考えていたら風車がいくつも回っている場所にきた。

ここにくるまでの道のりではアブソルは見つからなかった。
一体トレーナーを置いてどこまで行ってしまったのか…。

「ここが発電所だね?」

「そうだよ。…あれ?」女の子は首を傾げて「あの人誰だろう。」と言った。

発電所前に誰かいる。

あの独特なファッションは忘れる筈もない。
たしかギンガ団とかいっただろうか。


「パパがあそこで働いてるの。」女の子が小さく不安げに言う。

確かに、父親が働いている建物の扉の前にあんなに怪しい見た目をした男が立っていたら不安だろう。

見たところ、扉の前に立っている一人しか見当たらない。
一人だけならアブソルがいればもしも戦いになっても安心なのだけれども。

いや、もしかしたらただボーっと立っているだけかもしれないじゃないか。
斎はのろのろと発電所の方へ歩いていくと、ギンガ団の男の前を何気なく通り過ぎ、発電所の扉に手をかけた。

見張りのように扉の近くにいたギンガ団の男は目の前を通り過ぎた斎をボーっと目で追っていた。

斎の事を気に留めていない風だったが、
急にハッとした様子で「待て! 今ここは立ち入り禁止だ!」と斎の肩を掴んで、自分の方へ向かせた。

向きを無理やり変えられた斎は頭を斜め下に傾けいかにも困ったような顔をして「私、ここの従業員なんですけど…。」と嘘を付いた。


従業員だと言えば通してくれるだろうと思っていたけど、実際はそうもいかず、
「幹部さまに誰も入れるなって言われてんだ。諦めて帰れ。」と、追い返されそうになった。

「貴方だって発電所の関係者じゃないでしょ。町に戻って人を呼んできてやるから。」
挑発するように斎がそういうと、ギンガ団の男は腕を組んで「なんだと?それはそれで困る…。」

「なら仕方がない。少し痛い目にあわせて話す元気も無くしてやろう。」
そう言うと、ギンガ団の男はボールを取り出しズバットを繰り出してきた。

せわしなく翼をはためかせて高度を保っているズバットを斎は少し頭を上げて見る。
小さな子供を連れているというのに。
ギンガ団というやつは手加減や容赦を知らないらしい。

あれに噛まれたらさすがに痛いかな…。斎はぼんやりと考える。

ズバットが斎に襲いかかろうとした刹那、黒い影がその間に割って入りズバットを後退させた。
斎もたたらを踏み、割って来た黒い影に目を据える。

「アブソル。」

ギンガ団は目をギョッとさせていた。
「なんだ、ポケモンがいたのか?」突然のことに狼狽えた様子で。


勝てる。そう思うや否や、斎はアブソルに指示をだした。
「アブソル!シャドークロー!」


アブソルのシャドークローが敵のズバットに見事にあたった。
ズバットは一回転して宙を舞うと、ヒラヒラと花弁のように地面に落ちてボールに戻って行く。

アブソルの特性は『強運』。
急所にあったっていたようだったが、あまりの決着の速さに斎は唖然としてしまった。


「バトルで負けはしたが、本当の勝者は俺だ!」


負け惜しみにも聞こえる事を言うと、男は発電所に入っていった。

がちゃり、と鍵を閉める音がすると、中の方で「鍵を持っていないオマエにはどうしようもないだろう! ざまぁ見ろ!」と、声がした。


「…扉、壊そうか?」


アブソルに相談するように斎は言うと、アブソルが何かをくわえているのに気づいた。
鍵だ。

アブソルはその鍵に通してある紐を、閉ざされた扉のノブに吊るした。
まるで「この鍵で扉は開く」とでも言っているようだ。


「いつの間にこんな物を…?」


どこで見つけたか分からないが、ものは試しで斎は鍵を鍵穴に差し込んで軽く回してみる。

引っ掛かることも無く扉はカチャッといい音がして簡単に開いてしまった。


「な、何で鍵を持ってるんだよ!
  俺以外には、ソノオの方に行った仲間しか持ってないはずなのに!
  ……まったく焼け石に水だ。」


そう言って、男は発電所の奥へ姿を消した。


「ほんとに、いつの間に見つけたんだか…。」


振り返ってアブソルの方をみるが、当の本人は素知らぬ顔をしている。

発電所の奥。このまま奥に進んでもいいものなのか?
この先に何があるのかも分からないというのに。斎は考える。

一旦町に戻って助けを呼ぶのもいいだろう。
が、小さな女の子が縋るように足元にまとわりついて来るので、放っておけない気持ちになってしまった。

「ねぇ、私たちは発電所に行ってお父さんを探してくるから。あなたは町に行って助けを呼んできてくれる。」
斎がそう優しく問いかけると、女の子は黙って頷いた。

女の子の後ろ姿が遠くなると、斎は発電所の方に体を向ける。

発電所。という割には建物の中は暗く、電気が通っていないように見える。
こんな場所にギンガ団が何をしに来ているというのか。

先に足を踏み入れたアブソルに斎も続いた。





後書き

早くハクタイに行きたい



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