report2
このトラックは何処へ向かって走っているのだろう。
フタバタウンからとてつもなく離れてしまいそうで帰路のことを考えると心配になる。
それにしても、このトラックは何を運んでいるのか…?
暗闇に長時間いたせいで斎の目は暗闇に慣れてしまった。
見回してみると、何だかよく分からない機械の部品のような物が散らばっていたりダンボールが敷き詰められているのがうっすらと見えた。
ここにある荷物とナナカマド博士の鞄が盗まれたことは何か関係してるのだろうか?
斎にはそのことは分からないが、妙な胸騒ぎを感じた。
「トラックの奥、見てきてくれる?」
アブソルにそう言うと、斎は近くにあるダンボールに手を伸ばして開けてみた。
中には球体の物が箱いっぱいに詰まっている。
その一つを手に掴んで目を凝らすと、それがモンスターボールだと分かった。
「…なにこれ。」
もう一つダンボールを開けてみると、そこにも同じようにボールが入っていた。
これだけのポケモンをどうやって集めたのだろう?
疑問は深まるばかりだが、斎が考えにくれている途中に邪魔が入った。
「な、何だお前!あっちに行け!しっしっ!」
トラックの奥の方から男の声がした。
程なくしてダンボールの後ろからアブソルに引っぱられて男の人が現れてたのを見て、斎は首を傾げた。
「誰?」
丁子茶色のトレンチコートにスーツ、弛まず真っ直ぐ締められたネクタイ。
なりこそはまともだけど、こんなトラックの中に隠れているなんて怪しすぎる。
「君こそ誰なんだ。まさか、ギンガ団の仲間じゃ…。」
「ギンガ団?…アブソル、放してあげて。」
アブソルは男の人を放すと、誇らしげに斎の横に戻ってきた。
斎はアブソルの背中を撫でると立ち上がった。
「私、一般人ですよ。…腰、大丈夫ですか?」
どうやらこの男の人は腰を打ったらしいので、斎は立ち上がるのを助けた。
「わたしは国際警察の者だ。ハンサムと呼んでくれ。みんなそう呼んでいる。」
「……じゃあハンサムさん。唐突ですけど、何でこんな所に?」
ハンサムと名乗った男は気づいてないようだが、斎は少し引いた。
「ギンガ団らしき人物を追っていたらいつの間にかここに閉じ込められてしまってね。
そう言う君こそ何でこんなところに?」
「ポケモン泥棒を追っていたらここに。」
「そうか!やはりポケモン盗難事件とギンガ団は関係があるんだな。わたしの勘は正しかった!」
国際警察が着手してるということは、相当大きな事件なのかもしれない。
巻き込まれたら面倒くさいしあんまり関わりたくないなと、斎は心底思った。
「だが、君が来てくれてよかった。丁度、話し相手が欲しかったところだったんだ。
トラックが止まるまで宜しく頼むよ。」
「宜しく…お願いします。」
正直話したい気分ではなかったけど仕方無いと斎はまた座り込んだ。
ハンサムはと言うとダンボールに腰を下ろして、自分が任務で別の地方へ行った時の話などを延々と話はじめた。
初めは国際警察の仕事にも興味があったからよかったものの、途中から睡魔が襲ってきてまともに話を聞くような状態じゃなくなってしまった。
けれども話に合わせて「はい」とか「そうですね」とか相づちを打たなくてはならないのだから、とてつもなく面倒くさい。
まったくなんて気が滅入る話だと、斎は睡魔を誤魔化すように首をひねった。
そのまま、トラックの中でさらに時間が過ぎてそんな地獄の時間もとうとう終わりを告げた。
「ん…どうやら止まるみたいだな。」
ハンサムの言うとおり、このトラックはスピードを落としている。
「私は扉が開いたら降りますけど、ハンサムさんはどうするんですか?」
「わたしはあいつらのアジトを突き止めなくてはいけないからな。このまま隠れているよ。」
「そうですか。じゃあ、ハンサムさんとはここでお別れですね。」
「ああ、どこかでまた会おう。」
「はい。」
たとえまた会ったとしても長話を聞かされるのはもうごめんだと思う斎の横でアブソルが伸びをした。
斎は知るはずもないが、トラックが停車したところはマサゴタウンから離れている204番道路。
コトブキシティをさらに過ぎたソノオタウンの手前の道だった。
トラックから時代を先取りしすぎたファッションの男二人が降りる。
「本当なのかよ?」
運転していた方の男が疑うように問うと、片割れは心外だと言った。
「マジだって。ずっとトラックの後ろの方からお経みたいな声がするんだよ。」
「俺は聞こえなかったぞ。」
「いいからトラックの中確認しに行ってくれよ。
気になってしょうがないんだ。もしかしたら夜眠れなくなるかもしんない。」
「仕方ねえな…。どうせエンジンの異音だろが。」
そう言って男はトラックの中を確認するために後ろに回った。
「ったく…いい年して何言ってんだか。俺の方が年下だってのに。」
そう不満を洩らしながらトラックの扉を開けた。
が、いきなり鳩尾に攻撃をくらった。
攻撃がもろにはいった男は悶絶して地面にぶっ倒れ、
さらにその騒ぎに気づいた先ほどの頼りない上司が駆けつけた。
「おっおい!一体誰にやられたんだ!」
「…………」
「……相棒、生きてるか?」
「誰が相棒だ…気持ち悪い。」
「…ツッコんだな。その様子じゃあ、命に別状は無いよな。」
「おい、なんだそれ!少しは心配しろよ!」
「……何なのあいつら。」
その様子を木陰から眺めていた斎。
とりあえず、自分は出ることに成功したけど残ったハンサムが心配だったから様子を見ていた。
しかしそんな斎の考えを裏切るように、程なくして男二人組は荷台の中を確認するためか入っていった。
「なんだこいつ!」
「捕まえろ!」
っという風に荷台の中から声が聞こえたと思ったら、すぐさま大層慌てた様子のハンサムが飛び出す。
茂みに逃げ込んだハンサムを追って二人組も姿を消すと、あたりはめっきりと静まってしまった。
斎は茫然として隣に並ぶアブソルを見る。
「あの人なら平気そうだよね。」
根拠も何もないが不思議とそう思った。
木々以外には何もないような場所だが、トラックの向いている方とは逆の方向へ道をたどって行けばフタバタウンに帰れるだろう。
トラックに入る前には傾きかけていた日は完全に入り、今では足音の絶えた道は木葉がこすれ合う音だけ残して深山のように静かだ。
ヨルノゾクも鳴きそうな夜に斎はマフラーを口元まであげた。
斎はアブソルの背に乗り、「ちょっとだけ仮眠とるからその間よろしくね。」と言うとすぐに寝息を立て始めた
後書き
シリーズをまたにかけるハンサムさん回でした