Dem1


実写1冒頭




UMAや宇宙人を信じるかと聞かれたら答えはNoだ。大抵の人はそうじゃないだろうか。自分が実際目にしたことが無け

れば信じない。情報社会に生きていると誰も他人の言葉なんか簡単には信用できなくなる。私だってそうだ。そんな

私だけど、街中で走り回る二本足の巨大ロボットの話なら、例え飲んだくれの言葉でも信用できそうだ。だって今現

に目の前にいるんだから。

目の前の物体を先程までパトカーだと思っていたがそれは大きな間違いだった。ミミックのように擬態していただけ

のようだ。

今目の前にはパトカーだった大きなロボットがいるわけだが、それがどうにも現実味が無くて私は見上げているだけ

だった。本当は逃げた方が良かったのだろう。だけどそうしなかった。目の前の光景に恐怖を感じるのと同時に何か

面白いことが始まるんじゃないかと、そういう漠然とした期待を抱いてしまったからだ。

だけどすぐに後悔した。

ロボットは私の方へ赤い目を向けると一歩、また一歩と歩いてきた。とてもじゃないけど無害とは思えない。ロボッ

トから離れようと廃車の間を縫って後ずさるが、ロボットは邪魔な車をひっくり返して追ってくる。そのまま後ずさ

っていくと何かにぶつかってふと振り返った。なんともないこの駐車場に捨てられている潰れた車だ。次に正面を向

いた時にはロボットは驚くほどすぐ間近に迫っていて、その拍子にバランスを崩して車の上にひっくり返ってしまっ

た。

ロボットは車を挟むように地面に乱雑に手を置いた。

〈ユーザーネーム¨machina666¨か?〉

その声は独特なエフェクト混じりのまさに機械そのものの声質で言った。その声は高圧的で委縮してしまう。返事を

しようと口を開けたが、思うように声が出ない。

「あ…えっと、何?」

〈あのメガネはどこにある!〉

ロボットは気が短いようで声を荒げた。

目の前の出来事に頭がパンクしそうだった。ここしばらく不気味な出来事が続いていて、その後がこれだ。自分の背

丈よりも大きいロボットに追い詰められている。正直怖いという気持ちが頭の半分以上を占めていて、まともな考え

なんて浮かんでこない。それでも残った脳みそを働かせて浮かんだのは、このロボットが自分の持っているメガネを

欲しがっているということだ。

「…今は持ってない」

そう言うと、目の前の凶悪そうなロボットは苛立たしそうに地面を殴った。その振動に心臓まで揺れるようだ。気分

が悪くなってきた。吐きそう。

〈こい!〉

大きな手が荒々しく伸びてきた。少しは抵抗したつもりだったが、ロボットとスクラップの車に挟まれて逃げ場の無

い私はいとも簡単に捕まってしまった。足が宙に浮いている。ロボットに抱えられてるからだ。

「嫌だ…ウソでしょ」

足が地面から離れているのは不安だ。もしいきなり手を離されたら?そんなことを考えたら気が滅入った。

〈痛いおもいはしたくないだろう。嫌ならメガネを渡すんだな〉

メガネ…メガネはたしかポーチに入れてそのままだ。たぶん。メガネを渡すこと自体は簡単なことだ。だけど、腑に

落ちない。巨大なロボットの探し物が私の持ってるメガネ…?ちゃんちゃらおかしい。なにかたちの悪い悪戯のよう

な気がしてきた。

と、その時に大きなエンジン音を聞いた。例の呪われたカマロが走ってくる。そして突然衝撃を感じたと思ったら視

界が回転した。カマロがそのままの勢いでロボットに激突して、ロボットがひっくり返ったからだ。掴まれていた私

はロボットの手から逃れることができたが、そのかわりに地面に下手に着地してしまった。

痛みに顔をしかめる私の目の前でカマロの扉が開く。さっきまで呪われたカマロだと逃げ回っていたがどうやら悪い

奴じゃないみたいだ。

私が慌てて乗り込むとカマロは急発進した。


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