Lonsdaleite11


あの事件から数年経っていた。施設外のエイリアンと接触することも無く平穏な、もといつまらない生活を斎は送っていた。政府にも公にされてない組織に所属しているとなれば平穏とは言えないだろうが、斎からしたらもうこの環境に慣れてしまって日常になって面白みが褪せてしまった。

近日で変わった事と言えば、詳細は斎にも分からないが人工的に機械生命体を作ろうとしている支部があるらしくそこから声をかけられたことぐらいだ。噂では外からやってきた天然のエイリアンを捕まえたらしい。結局誘われたものの、その話は断ってしまった。


そんなおり、外からカタールの基地が全滅したと情報が入ってきた。いきなりの事で寝耳に水だったが、事が始まったのだと斎の直感は告げていた。それを感じ取っているのは斎だけではなく何人かの職員も何かしら察しているようで、特にエイリアンオタクといっても過言ではないシモンズは直々に進言して調査に取り組むべきだと主張していた。けれど、エイリアンの侵攻だとはハッキリと決まったわけではない。カタール基地を襲った相手は不明だが、軍のネットワークが狙いだったようでそのハッキング時の信号だけが手掛かりとして残っていた。セクター7の捜査部の面々はその信号を解析するために着手している。

そんな中、半ば無理矢理長期休暇を取った斎は安いホテルにチェックインし、パソコンの画面に向かいながら眠そうに目を擦っていた。暇なのは嫌いだが、睡眠時間を削ってまでやりたいことなどそうそう無い。だが、今回は特別だ。斎は自分の管轄外であるのにも関わらず、興味の赴くままに任せて勝手に調査を進めていた。

カタールの基地が何者かに襲われた時、その何者かは基地を襲撃するのと同時に軍のサーバーをハッキングしていた。ハッキング相手のハッキングの目的は分かっていないが、何かを探しているのは間違いない。幸いにも情報が盗まれるを阻止できたそうだ。なら、きっとまた何処からかネットワークに侵入してくるだろう。それを待って軍周辺のネットワークを見張っていた斎はコンピュータが例の信号を捉えたのを見た。例の信号は大統領専用機から発せられていて、またデータを盗もうとしている。

相手は自信家のようだ。カタール襲撃から時間を置かずにまたハッキングをしてくるとは。流石に軍の人間も気づいているのではないかと思う。ハッキングをしている相手が何の情報を盗んでいるのか斎は知りたくて、そのハッキング相手を少し突っついてやろうと思った。


その頃、大統領専用機ではフレンジーがハッキングに精を出していた。簡単な仕事だが気を抜いてはいない。また接続を切れられでもしたら面倒くさいことこの上ないからだ。

そんな時、フレンジーは自分でもこのお粗末なセキュリティの端末でもない別の第三者が介入していることに気付いた。注意深くなっていなければ見過ごしていたかもしれない。それほど相手のクラッキングはさり気なく自然で、かつ大胆だった。相手は自分が奪取しているデータを横からそっくりそのままコピーしていたのだ。

相手が誰で何の目的があるにしても、黙ってやられているだけのフレンジーではない。目当てのデータがネットワークから隔離された後、その第三者もすぐさま痕跡を残さず霧のように消えてしまったが、お返しにウイルスを仕込んだやった。あとはこのウイルスがそのジャジャ馬の元まで案内してくれる。今は兎にも角にもバリケードと合流をしなくてはいけない。


斎は複製したデータを見て少なからず驚いた。軍のネットワークから奪われたのはセクター7とアイスマン計画に関するデータだったからだ。ほぼ間違いなくハッキングしてきたのはあのエイリアン達だ。彼らは自分達セクター7の存在に気づいてキューブとNBE-1の在処を探しているのだろう。そして彼らの次の行き先は…おそらくサム・ウィトウィッキーのところだ。何の巡り合わせかまた彼を訪ねることにした斎は手早く荷物をまとめるとチェックインしたばかりのホテルを飛び出した。

サムの所に向かう途中乗ったタクシーの中で斎は寝ていた。外は暗いがどちらかというと夜よりか朝に近い時間帯で、斎の睡魔も限界にきていた。それにタクシーの揺れが心地よくてたまらない。

目的地に着くまでそれなりに時間がかかる。その間ゆっくり眠っていようと思っていた斎だったが、そうはいかなかった。斎の乗っていたタクシーに強い衝撃がはしったからだ。タクシー全体が軋み、ボディはひしゃげて酷い破壊音がした。中で眠っていた斎は頭を強打したのと眠気によって、何が起こったのか分からない内に意識を手放してしまった。

動きを止めたタクシーの中で動くものは何も無い。その光景は凄惨な事故現場に見えるが、これはただの事故じゃない。タクシーの運転手は居眠り運転をしていたわけでも飲酒運転していたわけでもないし、そんなありきたりな原因なんかではない。タクシーに衝突した相手はゆっくりとガラクタになったタクシーに近づいていた。


斎が目を覚ましたのはすっかり日が登って高くなってからだった。昼近いかもしれない。斎は眠りに入る前と変わらず車の後部座席にいたが、すぐに自分がタクシーではない別の車の中にいることに気付いた。頭は痛いし、昨日のアレは夢じゃなかったのかと自分の記憶を確かめると、慎重に周りの様子を窺った。ノートパソコンにお菓子に財布その他諸々、自分の荷物はしっかりある。運転席には警官らしく制服を着た男の人が座っていて、どうやらパトカーの中らしかった。自分は事故にあって、そして今はパトカーの中にいるという状態に違和感を感じる。普通、事故にあったら乗せられるのは救急車ではないのか、と。

「Hi、えーと…つかぬこと伺いますけど何処に向かってるんですかね?私行かなくちゃいけない所があるんですけど」

斎がそう聞くも、警官は黙りを決め込んで何の反応も返さなかった。

「ちょっと聞いてる?」

今度は語気を荒らげて言うが、やはり反応は無い。斎が後ろから座席を蹴っ飛ばしたり、警官の目の前で手を振ってみたりしてもそれでも一言も話さなかった。そんな警官の様子にさすがの斎も気味悪く感じる。

「仕事に真剣なのか何なのか知らないけど。おじさんさ、ターミネーターっぽいって言われない?表情筋死んでるの?まだ無視決め込むつもり?」

その時斎はふと警官の横顔を見て既視感を抱いた。以前に会ったことがある気がする。残念ながら斎は他人の名前や顔を覚えるのが得意ではないし、今までお世話になった警官の数も両手では収まりきらないほどだから尚のこと思い出すのは難しかった。よく見ようと身体を乗り出した時に視界に入ったのはあまり良くないものだった。ホーンパッドに例のエイリアンの意匠。斎の視界がもう少し広ければ、助手席にCDレコーダーが置いてあるのに気付いただろう。

斎は急に冷静になって身体を引くと、そのまま席に座った。

「何か問題でも?」

声は警官の近くから発せられた。でも、斎にはその声が警官のものではないと分かっている。

「いや、何でもない。ただ持病の立ちくらみがしてね。そんな事よりのど飴でも舐めたら?声変だよ」

〈誤魔化すのはやめろ〉

バリケードは凄んだ。斎は気づいていない体を装おうのを諦めると、仕方ないと肩をすくめた。

「わかったよ」

斎は誰から見てもニヤついている。何故面白いのか斎自身分かっていないが、人が恐怖を感じた時に思わず笑ってしまうのと同じだろうと自己解釈した。車内に漂った独特の雰囲気のせいだ。それに自分が今置かれている状況もちゃんちゃらおかしい。バリケードと対面したのが実に久しぶりでどう話していいか妙な気まずさがある。

「よく居場所が分かったね」

〈そりゃあ分かるさ〉

バリケードとはまた別の機械的な声が助手席から聞こえてきた。CDレコーダーからトランスフォームした、斎から見ても小さなエイリアンのフレンジーは助手席から顔を出した。

〈例の虫けらか。写真で見るより可愛いじゃないか〉

「どうも。で、何で居場所が分かったの?」

〈企業秘密だ〉

教えてくれないようだが、斎には何故自分の居場所がバレたのか思い当たる節があった。大方、彼らをハッキングした時にウイルスでも貰ったのだろう。そのせいで居場所が漏れたのだ。

「そう。じゃあせめて行き先ぐらい教えてよ」

フレンジーは金属の指をカチカチと鳴らすと、助手席から飛び出し斎の横に座った。

〈どこだと思う?〉

質問に質問で返してくるとは相手は素直に教えてくれるつもりは無いらしい。底意地の悪いエイリアンだが、バリケードやスタースクリームよりかはまともに対話が出来そうだと斎は思った。

〈サム・ウィトウィッキーのところだ〉

そう答えたのはバリケードで、彼の声はイラついているように斎には聞こえた。〈簡単に教えたらつまらないだろ!〉とフレンジーが非難の声を上げるがそれに対しても唸り声の様な音を出した。そういえば彼はよくイラついていた。バリケードはストレスで早死するだろうと斎はぼんやりと考えた。

「それなら丁度よかった。私もサムに会いに行こうと思ってたの」

〈何の用で?〉

「怖いエイリアンに狙われてるよって教えてあげようと思って」

冗談めかして斎はそう言うと笑った。サムに危険を知らせたいのは山々だけど、今の自分ではとても無理だ。バリケードたちから逃げられないし、逃げれたとしても彼らよりも早くサムの元に着くのは難しい。

〈噂通り面白そうな虫けらだな〉

と、フレンジー。

「サムの所に着くまで話しでもしようよ」

斎はカバンの中からロリポップを取り出すと舐めだした。ロリポップは美味しいが食べるのには時間がかかるし気をつけないと舌を切るのが難点だ。


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