Lonsdaleite10


「たまにはお前も役に立つんだな」

キューブへと繋がっている管が目の前で組み立てられていくのをシモンズと斎は見ていた。

「でしょ。私の専門分野じゃないんで本当に昇給して貰いたいところですね。ボーナスに期待」

キューブのエネルギーを何に使うのかなんて斎にはよく分からないが、このエネルギーを自由に扱えるようになるのが上から求められていた。これで研究も捗るし、自分の給料も上がるかもしれないから御の字なのだけれども、その一方で不安も少しあった。本当にキューブのエネルギーを人間が使いこなせるのかとか、正しい使い方を出来るのかと。もうすでにことは始まってしまってるからもう止まることは出来ないが、キューブのエネルギーの抽出方法について進言し研究を進めたのは自分だから、何かあったら気分が悪い。

四方を鉄板で覆われた部屋に職員がラジカセを持ってくると、部屋の中央に設置かれた箱の中に入れた。実験がうまくいけばこのラジカセはただの金属製品から金属生命体になる。

何人かの職員が見守る中シモンズが壁のレバーを大きく下げた。それからの出来事はほんの一瞬のことだった。機械の先からプラズマが出てラジカセに当たるとラジカセが震えだした。飛び上がってトラスフォームしたラジカセは赤い目をしていて、狭い箱の中で暴れ回っては透明な壁に何度もぶつかった。アクリルの透明な壁にヒビが入るのを見て周りの職員たちの騒ぎが大きくなる。部屋の中の機械はキューブのエネルギーを運ぶものが殆どだが防衛面でもしっかりとした装置がつけられている。シモンズがもう一方のレバーを下ろすとカジカセを閉じ込めている箱の中に強い電流が流れ、ラジカセのボディはその電流に耐えきれず煙を出して沈黙した。

「初めてにしては上出来だと思うよ」

煙を出しながら死んだ虫のようにひっくり返っている元ラジカセだった生き物から目を離すことなく、斎は呟いた。

「箱の耐久性に少し不安があるがな。ほら、解散だ。解散!」

シモンズが猫を散らすように手を振ると職員達は部屋から出ていった。初めてのデモ実験は成功だった。これに気を良くしたのだろうか、上からの命令は実験をさらに進めてこの生物の調査を進めるのと同時にキューブのエネルギーに他の活用法がないかの調査をすることだった。新たに生物サンプルも手に入れ研究も軌道に乗り順調だった。

そんなおり、事件が起こった。

例の部屋で問題が起こり、箱の中からエイリアンが出てしまったのだ。それだけでも大変だというのに、その時部屋の中にいた職員がパニックを起こし、部屋の扉を開けて逃げ出してしまった。そのせいで部屋の外にライオンよりも危険な生物が逃げ出してしまったのだ。キューブの置いてあるサイロは完全に封鎖され、斎を含む何人かの職員が閉じ込められる始末。

「実際に見たやつの話だとカマキリに似てるらしい」

シモンズが暇そうにアイスの棒を噛んでいる斎の元にやってくると言った。

「ふーん。で、何使って実験してたんで?」

「ソニーの50インチテレビだ」

「そりゃ大変だ」

50というと結構な大きさだ。どうせ実験に使うなら自分に1台譲って貰いたいぐらいだとごちた。

装備を確認し、何人か武装をした部下を呼ぶシモンズを見て斎は間の伸びた声をだした。

「先輩も行くんですかー?」

「ああ、人手が足りてないからな」

「じゃ私も手伝いますよ。こんな狭いところに、しかも頭でっかち共と一緒に閉じ込められるなんてゾッとする」

そう言うと研究員の方を指で指した。冗談の通じない真面目な研究員たちが斎は苦手だ。

「そうか。なら来い。ただし、襲われたらお前を囮にして逃げるからそのつもりでいろよ」



「こういう時は相手の気持ちになって考えるんだ。よく言うだろう。ペットのハムスターが逃げた時とかに」

とシモンズは話し出す。格納庫から離れた通路を2人は歩いている。シモンズは地面に手をついて無数にある管の隙間を見て回っている。

「お前があの怪物だったら何処に隠れる?」

「そうですね。まず、人気のないところとか。あとは暗いところ、狭いところ…とか。そう考えるとハムスターもエイリアンもそう変わらないね」

ハムスターと聞いて斎はふとバリケードのことを思い出した。あの金属の隣人と最後に会ってから久しい。斎の耳には直接彼らの話は入ってこないが、ここ最近シモンズが施設に出入りするのが多くなったのを考えると何かあるのはなんとなく予想できた。

「例えば?」

「この通路だったらそこの通風口とか。…"エイリアン"っていう映画を見たことは?」

「ゾッとするな」

シモンズがそう言って上にライトを向けた直後、コンクリートの天井が崩れた。シモンズが顔を手で覆って転けるのが見える。それに天井からコンクリートの欠片と一緒に落ちてきた物体も。ふたつの鎌をもたげているその姿はカマキリに似ている。威嚇をしているのか機械音を出しているエイリアンは今にもその鎌でシモンズを刺しそうな様子で、斎は慌ててシモンズとエイリアンの間に割って入った。金属生物が背中の後翅を広げているのを見てふと斎は笑った。

「そんなに怒らなくても大丈夫だよ。ほら」

斎は装備していたスタンロッドにテーザー銃その他もろもろ地面に落とした。後ろでシモンズが女みたいな金切り声で叫んでいるがあまり気にならない。

「私はきみの仲間だよ。分かるよね?」

斎の言葉にゆっくりと翅を閉じるカマキリ型のエイリアン。生き物として生まれたばかりだし、その上何も分からない内に人間に追われていたのだからさぞ不安だったことだろう。斎はかわいそうにとカマキリ型のエイリアンを撫でる。

「こっちだ!早く!早くこい!」

シモンズの声にはっとして後ろを振り返ると銃を持って武装した人間達がやってくるのが見えた。

「斎、伏せろ!」

「待ってよ、止めて!」

斎の言葉にも関わらず武装した人間達は銃を構えだした。それを見て落ち着きだしてたエイリアンが翅を広げて威嚇しだした。

「ダメ。ダメだって!」

斎が静止してももう遅かった。誰かが発砲したのだ。それがエイリアンの逆三角の頭に当たった。誰かが撃ったのを口火にみんなが発砲しだした。下手したら斎にも当たってしまうような状態だったが、エイリアンが彼女を突き飛ばしたお陰で弾に当たるようなことは無かった。その代わりにカマキリ型のエイリアンのカミソリみたいな翅が当たって怪我をしたが。

地面に倒れた斎は急いで顔をあげるとひどい光景を見た。カマキリ型のエイリアンは弾幕に怯むことなく人間に襲いかかっていて、その1人を両手の鎌で突き刺していた。その後のことを斎はよく覚えていない。


医療室の白いベッドで横になっている斎の元にシモンズがやってきた。斎はすでに起きていて、 やってきた訪問者に白い目を向けた。

「まだ不貞腐れてるのか?」

斎は先ほどまで読んでいた先祖の手帳を閉じた。

「どうして殺したんですか」

「攻撃されただろう」

「攻撃されればシマウマですら反撃しますよ」

斎の口調からはエイリアンを殺したことに対する批判の気持ちがありありと現れていた。

「エイリアンをペットにしようって魂胆だったらやめた方がいい。チワワやプードルとは訳が違うんだからな。現に1人死んでる」

シモンズの言葉に悪態をつくと、斎はこれ以上話す気は無いといいたげに身体を横にして背中を向けた。

「斎、みんなおまえを心配してるんだ。お前の祖先のアレンとやらと同じ道を歩み出さないかってな」

みんなって誰だ。私の事を知りもしないくせに何を都合のいいことを。斎は思ったことを仕舞い込み黙ったままだった。


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