Lonsdaleite08


斎を見失ったバリケードは気がたっていた。そもそも怒りやすい質なのでいつものことだが。フレンジーは斎が帰宅したことを考えて待機している。それに対してバリケードは外回りだ。斎の行先に心当たりなどあるはずもなく、こうして不毛に外を宛もなく走っているわけだ。イライラしないわけがない。

けれども斎は普通の人間と違って微弱だがスパークを持っている。近くまでいけば見つけることができるだろう。それだけが救いだ。

そんなこんなでひたすらタイヤを回転させていたバリケードだったが、あるショッピングモールの前を走行中に目の前を影が横切ったために停車した。横切った影はショッピングカートで、誰かが突き飛ばしたのだろうとバリケードは考えた。と、その時微弱なスパークをそばに感じバリケードの意識はそっちへ向かったのだが、間を置かず車体に何かが寄りかかってきた。エイリアンとも知らずにどこの頭の悪い哺乳類かとバリケードは気分を酷く害したが、その相手を見て多少動揺した。

「や、バリケード。いいところに来てくれたね」

斎だ。ボンネットの上に悠長にも寄りかかっている。こっそりと姿を消した斎がまさか自分から姿を現すなんてどう考えてもおかしい。なにか企んでいるのかもしれない。バリケードは勘繰る。だが、斎の発言は思わずため息をつきたくなるほど下らないものだった。

「買い物したんだけどさ、沢山買っちゃって困ってたんだよね。家まで送ってくれないかな」

悪びれる様子もなく斎は言う。本当に理解できない人間だとバリケードは思った。

〈ふざけるな〉

そんなことに付き合う義理は無いとバリケードは声を荒らげた。が、斎は怯まない。

「いいじゃん、ね?どうせ私のこと見張ってたいんでしょ?私がトロトロ大荷物持ちながら家まで帰るのを後ろからノソノソついてくるおつもり?」

斎はいたずらっ子のような憎たらしい笑顔で言った。斎の言わんとしていることは分かる。バリケードも斎の後ろを亀のようにゆっくりとついていくつもりは無い。

「それに私は誰かさんのせいで足がとっても痛いのですよ。その誰かさんにはちゃんと責任とって貰わないと」

〈……いいだろう〉

渋々と言った様子でバリケードは容認した。斎はその言葉に「やった」と嬉しそうだ。

〈それで、荷物はどこだ〉

「あそこだよ」

そう言って指さす方向には先ほどバリケードの前を横切ったショッピングカートがあった。カゴには大量の、おおよそ斎ひとりで消費しきれるのか疑わしい量の食糧が入っている。自分が通りかからなければどうするつもりだったのだろうかと、バリケードは考えながら後部座席のドアを開けた。


「あー、そういえば」

バリケードが斎を乗せて走っている途中、斎は何かを思い出したのか思いついたのか話し出した。

「結局きみ達のこと聞いてなかった。きみ達って何なの?地球には何しに?オールスパークだっけ?探し物してたけどそれが地球に来た理由?あまり人間には友好的な感じしないんだけど、人間を滅ぼすとかRPGの魔王みたいなこと言わないよね?」

斎は矢継ぎ早に質問を浴びせる。

〈人間の言葉で言うなら金属生命体だ。お前の言うとおり、オールスパークを探しに地球にきた。人間には興味は無い。俺はな〉

「ふーん。わざわざ宇宙を渡ってまで探しに来たんだから、相当大事なものなんだろうね」

〈……重要なものだ。オールスパークには故郷と一族の再建がかかっている〉

「故郷ねぇ。どうかしたの?」

〈戦争で故郷は廃れ、その上戦火の中オールスパークも消えた。お前のような有機生物には理解できないだろうが、オールスパークは俺達が繁栄を維持していくには不可欠なものだ〉

戦争というワード。人間を見下しているような発言を度々している彼らだが、やっている事は人間とそう変わらないようだ。斎はそのことについても聞きたかったが、先にオールスパークについて聞くことにした。オールスパークのことは斎にとっても重要な事だからだ。

「オールスパークって結局何なの?私たちが生きてくには食べ物が必要だったりするけど、オールスパークもそんな感じ?」

〈オールスパークは歴史でありエネルギーであり生命だ〉

「はぁ、なるほど」

結局なんなの。と斎。

〈……少なくともお前にとっては何の価値もないものだ〉

「そうかもね。じゃあ戦争のこと教えてよ。誰と誰の戦争?」

〈情報もタダじゃない。それに見合った情報と引換だ。質問に答えた分、今度はこちらから質問させてもらおうか〉

バリケードはこれ以上教えてくれる気は無いらしい。嫌な予感がするのと同時に斎は面倒くさいことになったと思った。やけに質問に素直に答えてくれると思ったら、つまりはそういうことだったのだ。

〈おまえはどこの組織に所属している?〉

「いきなりだね。悪いけど君たちが望んでいるような答えはあげられないよ。私は別に誰かに言われて君たちを調べてたわけじゃないからね」

〈スタースクリームはお前が仲間といるところを見ている。それはなんだと?〉

そのときに変わり者の自分の上司の顔を斎は思い浮かべた。今頃彼は自分が残していった書類の整理に追われているかもしれない。それを考えると少し可哀そうな気がした。

「私はしがない一匹狼だよ。でもさすがに軍の施設に入るには助けが必要でね。あの時いたのは私の協力者だよ。これを握らせてね」

斎は指で円を作って見せた。

〈なんだそれは〉

が、エイリアンには意味が伝わらなかったようだ。

「お金だよ。紙幣。マネー」

〈しつこく言わなくていい。なら、オールスパークの在処は?〉

「前に聞かれた時に知らないって答えなかったっけ?」

斎はつまらなそうに欠伸をした。彼女のいい加減な態度に、けれどもバリケードはそんな厚顔無恥さにも慣れたもので頭にきて言葉を荒げるような事は無かった。

〈斎、オールスパークについて他に聞きたいことは無いのか?〉

予想していなかったバリケードの質問に斎は一瞬黙り込んだ。聞いてくるからにはそこには何かしら意味があるのだろう。なにか言葉選びに失敗でもしたかと自分の言動を振り返るがこれといって思い当たる記憶はない。

「今のところ大丈夫だけど……何いきなり」

バリケードはお喋りじゃないと斎は短い付き合いながら思っているし、自分から"他に聞きたいことがあるのか"なんて聞いてくるのはおかしい。やはり何か裏があるのではないかと勘繰ってしまう。

〈お前はオールスパークに興味があるようだが、その外観については全く聞いてこない。普通なら聞くだろう。どんな色をしてどんな形をしているのか。だが、お前はオールスパークの性質ばかりに意識が向いている。なぜならお前は見たことがあるからだ。オールスパークを〉

「はあ、なるほど。そうきましたか。大した推理じゃないか、ワトソンくん」

普段と変わらずの上調子に戻って斎は答えた。彼女は自分の所属とオールスパークその他もろもろの事は、元より知らぬ存じぬで突き通すつもりだった。

〈ふざけるのも大概にしたらどうだ〉

「そこであえて私は"異議あり!"と言わせてもらおう。単純に私がオールスパークのなりかたちにまで意識が向かわなかった、とは思わないのかな?必ずしも私がオールスパークを知ってるから見た目を聞かなかったとは言いきれないよねー。証拠としては不十分かな。出直したまえ」

シラを切ることに徹する斎。今までの斎の言動から素直に認めるとは思っていなかったから予想の範囲内だ。諦めず言及したいところだが目的地である斎の家が近く、惜しいが今はその時間は無い。今の所斎に逃げる様子はない。今無理に聞き出そうとして身の危険でも感じれば斎はすぐさま姿をくらますだろう。なら当初の通りに斎を見張っていた方がいい。忍耐勝負は得意ではないが人間の寿命が短いのを考えればすぐにケリがつくだろう。

バリケードは斎の家の前に止まる。しぶると思っていたバリケードがすんなりとドアを開けてくれたことに斎は少し驚いた。いつかのスタースクリームとは大違いだ、と。

「明日も来てよ。私も暇を潰せるし」

〈毎日お前を相手にするほど暇じゃない〉

「嘘だね」

そう言って斎は笑うと両手いっぱいに荷物を抱えて家へと戻って行った。

斎が去った後何とも言えない静寂が訪れた。斎は多くの異星人を見てきたバリケードにとっても変わった生き物だ。敵になりうる存在でもあるが、愛嬌があるというかなかなか憎めないところがある。

数分後、斎と入れ違うようにやってきたのはフレンジーのやつで、これはまた斎とは違う煩さだなとバリケードは考えながら、ひとまずはその場を離れていった。


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