Lonsdaleite04
しばらくの休暇を貰った斎はフーバーダムを離れて街中へ来ていた。目的は買い物で、買うのは服だったり化粧品、明日のおやつと茶葉に‥‥女はなにかと入用なのだ。
カードで支払いを済ませた斎は買い物袋を両手に店から出ると、向かい側の車道に止めた車へ向かった。
と、けたたましいブレーキ音がした。斎が横へ顔を向けると、パトカーが1mも離れていない所で止まっている。
「失礼、おまわりさん」
悪びれる様子も見せない斎に、パトカーに乗っている警官は表情筋が死んでいるような無表情をしているだけだった。あと少しパトカーのブレーキが遅かったら死んでたな。と斎は考えながらまた足を進めた。車の後部座席に荷物を置き、運転席に座る斎をジッと見る者がいたが彼女はそれに気づかなかった。
その日の日中は買い物に時間を全て費やし、斎は日が暮れだしてやっと帰る気になった。
車を走らせ帰路についている斎だったが、後ろから聞こえてきたサイレン音に思わず舌打ちをした。バックミラーから見えるのはパトカーで、周りに他の車は無いしどう考えても斎の車を追っている。
マズイ事になったと斎が思うのは、彼女が無免許だという揺るぎない犯罪行為を行っているから至極当然の事で、それに、この車は彼女のものではなくシモンズの車で勝手に借りてきていたというのだから輪をかけてマズイ。速度には気をつけていたのに警官に目をつけられるなんて運がないとしか言いようがない。
斎は仕方なく車を停車させた。
パトカーのサイレンは止まったが、中に乗っている警官はパトカーから降りてくる気配が無かった。バックミラーから様子を見ると、パトカーに乗っているのは見た顔で、今日ぶつかりかけたパトカーの警官だった。斎は嫌がらせか?と思って顔を後ろへ向けようとしたが、その時車全体に衝撃が走って危うく首を傷めるところだった。
「首が‥‥っていうか何!?」
慌てて外に出た斎が見たのは見るも無残な光景だった。車の後部が潰れている。
「これ、まずいって‥‥車のお尻がズタボロ‥‥ポラギノール塗っても治らんやつや‥‥‥‥いや、でもまだ原型留めてるから最初からこんな形だって言い張ればワンチャンある‥‥か?」
と、斎は車の現状に関心が向かっていたが、すぐ近くで聞きなれない不穏な機械音がして振り返った。彼女が見たのはパトカーが何かに変形している場面で、形が二足の…人に似た形になったところで変形は止まった。
ロボットがいきなり殴るように腕を振ってきたものだから、斎は飛び上がって車の上にひっくり返った。続けざまに大きな拳がすぐ横に降ってきて、それに車はぺしゃんこに潰されてしまう。
「‥‥保険効くかな?」
ロボットに車を壊されたときに保険は降りるのだろうか。
「何故貴様のような虫からオールスパークと同じ力を感じる?」
ロボットは声を荒らげて車を揺らした。そんな暴れ牛の様な目の前のロボットに斎は車体にへばりつきながらも観察するように目を走らせた。ただのロボットじゃない。NBE-1と同じ種族なのだろう。
「何言ってるのかちょっと分からないけど、とりあえずそんなに迫らないでくれるかな。そんなに顔近づけられたら出る言葉も出ないって」
そう言って斎は片手で自分のよりも大きい頭を押した。これに相手は驚いたようで少し体を引いたのだが、すぐにまた凄んだ。
「殺されたくなければオールスパークがどこにあるか言え!」
ドンと今度は地面に拳が叩きつけられて、車ごと斎の身体が一瞬浮いた。
オールスパークと言われても斎にはサッパリなもので、何を思ったのか彼女は目の前の暴れん坊に嘘でも教えて困らせてやろうと思った。
「オールスパークが何かは存じ上げないですがね、日本に行けば見つかると思うよ」
「日本にあるのか?」
「そうそう、日本に行けば幸せになれるよー」
と、適当な事を斎は言っていたのだが、エイリアンロボットはそれを間に受けたようだった。
「飛行機乗らないとね」
斎が笑顔になって言うと、ロボットはスッと彼女から離れて小馬鹿にしたように鼻を鳴らした様な音を出した。
「ふん、命拾いしたな」
車の形態に戻るとそのまま走り去ってしまった。
人気の無い道に静寂が戻ってきた。
「初めて動いてるやつ見た‥‥にしても頭悪いなー」
と見当違いの感想をごちて、斎はボロボロになった車に頭を抱えるのだった。