Lonsdaleite03
セクター7はキューブの扱いに関してとても慎重だ。生身で人が触れてどんな影響がでるか分からないし、以前キューブが何かの弾みで動いた時に施設内の機械のいくつかがNBEへ変化し大惨事になったことがあるらしい。
セクター7の資料庫でファイルを読み漁り板チョコをバリバリ食べていた斎は、手に持っていた紙の束を棚に戻すこともせずに放り投げた。
キューブには機械をNBEに変化させるエネルギーが詰まっている。エネルギーの利用法は今のところ不明。そのうえ、キューブのエネルギーを意図して扱う術も未だ見つかってないときた。それを調べるのが斎の仕事の1つでもあるのだが、いかんせん面倒くさい。キューブの事ならNBEに聞くのが手っ取り早いが聞くにも相手は氷漬けだしどうしたものかと胡座をかいた。何にせよ直接触ったりいじったりする方が自分には向いているものだから、斎は気になる資料に一通り目を通すとキューブの元へ向かったのだった。
斎はキューブのサイロへ到着するとさっそくリフトに乗り込み、キューブに接近した。
「んーよしよし。宇宙からのお客様。本日のゴキゲンはいかがでしょうか」
そう言ってキューブの表面をベタベタと撫で回す斎。材質は不明だ。そもそもプラチナと銀の違いすら分からない彼女に宇宙からきた鉱物のことなど分かる筈も無かった。
「物質科学も勉強すればよかったな」
ごちる斎。
キューブの表面には法則があるのかそれともデタラメか模様が掘られている。文字の様なものが大きく目に付く。きっとエイリアンの文字だろう。翻訳こんにゃくのような便利アイテムがあれば意味も分かっただろうに。
「防護服も着ないでそんな事してると上に怒られるぞ」
斎のはるか下の方からそんな声が投げかけられたが、斎はそんな事気にしなかった。
「防護服越しじゃ分かることも分からんでしょ。そんな事よりリフトもっと上げてくれ」
正方形に分けられた模様の集まりに、遠目で見たら大きな模様に見えるのにまるでモザイク画のようだと斎は忙しなく目を動かした。
「巨大なパズルでも解いてる気分だ‥‥うわっち!」
身を乗り出した時に無意識にキューブに置いていた手が痺れて、斎は手を引っ込めた。身を引いて手を確認するが痺れている以外は何ともない。
と、リフトが突然降下しだして斎は「誰だ」と見下ろしたのだが、その時シモンズの怒りの顔が見えたものだからバツの悪そうな引きつった笑顔をするしかなかった。
あの後やっぱり叱られた斎は身体検査を受けた後、始末書を書かされることになった。
「書き終わらないと今日は部屋から出さないからな」
と、未だ怖い顔をしてシモンズが言うものだから斎もそれに大人しく従った方が賢明だろうと思ってペンを片手に書き出した。
「はいはい。えっと、"この度は、私の社会人としてあるまじき行為により‥‥‥‥」
斎はそこまで書くとペンを止めて向かい側のシモンズへ顔を向けた。
「そういえば、色々検査受けたけど結局何にも異常はなかったんだよね?」
「もし異常があったら始末書どころの騒ぎでは済まなかっただろうな」
「だよね」
斎は肩をすくめるとまた紙へ向かった。ペンを持っている右手は未だ痺れていて始末書を書くのに苦労した。
その後数日治まらず、しかも日をおうごとに広がっていく痺れは斎の頭を悩ませたが、ある日寝て起きるとスッカリその症状は消えていた。不思議に思ったが治ったのならもういいや。と軽い気持ちで考え、更にやっぱり実際に触らないと分からないこともあると改めて思うのだった。