Lonsdaleite02


フーバーダムの基地は外で見た時には全くわからないが、中は広大な空洞になっていた。

まず斎が案内されたのはNBE-1のところだった。パッと見ただけでは生き物とは思えないメタリックなボディとその大きな体躯にアルマは感嘆の声をあげた。

他に比べてNBE-1の事はあまり書いていなかったが手記によると、このNBE-1の身体構造が今の人類の科学技術の発展に役立ったらしい。シモンズにもそう説明された。アイスマンというか、メタルマンって言うのが相応しいなと斎は思った。

次に連れていかれたのはキューブのところだ。

キューブはその名の通り立方体の物体だ。キューブは膨大なエネルギーを持っていて、そのエネルギーを隠すためにフーバーダムという隠れ蓑を作る必要があったらしい。

「そういえば、なんで私をここに連れてきたの?」

一通り説明を聞き終わったあと、斎は疑問に思って口を開いた。

「セクター7の決まり事だ。万が一斎・ロンズデーライトがセクター7や地球外生命体の存在に気づいたら、セクター7で身柄を預かるというな」

「へぇ。じゃあサムは?サムがエイリアンの事を知ったら同じように拘束する?」

「ウチウッキー家の小僧か。あいつには両親がいる。子供というのは時に勢いに任せてバカな行動をするが、保護者がいれば抑止力になるだろう」

「お言葉だけど私はしっかり自立してるから」

斎は少し苛立たしげに言った。彼女には両親はもちろん血縁者がいない。保護者と呼べる存在も。

「アレン・ロンズデーライトは優秀な技術者だったと聞いている。その子孫であるお前も相当な実力を持っているらしいな。うえはお前に期待している。精々頑張ることだな」

「へぇ‥‥ん?何の話し?私ここで働くの?」

「当たり前だ。働かざるもの食うべからずって言葉があるだろう。それに自立してるのだろう?なら当然だ」

「大学は?」

「そんなもの退学だ」

「おぉう」



調査部に配属された斎。

調査と言っても何をしたらいいのか分からず、日がな白衣の長い裾を引きずるだけの生活をしていた。

ある日斎は仕事の足掛かりになるかもしれないと、NBE-1の置いてあるサイロでアレンの手記を読んでいた。アレンの字は綺麗とはいえず、読むのには根気がいる。それゆえに未だ手記の全文を読み終えてはいなかった。

ふと視線をあげるとNBE-1の巨大な足が見えた。視線をさらに上げて視るがNBE-1の身体は非常に大きく、視界の中に納まりきれない。斎は立ち上がるとNBE-1に近づく。金属の身体に触れてみようと思ったが、カチコチに凍ったボディからドライアイスのように冷たい煙が流れているのを見て止めた。いつか生きて動くエイリアンに会ってみたいものだ。

「こいつに興味あるのか?」

突然の声に斎は驚いたが、相手は同じ部署の先輩と紹介された人だった。名前は覚えていない。

「このバケモノが人類の科学技術の母だなんてとても思えないよな。ただ突っ立って凍ってるだけで人のためになるっていうんだから、俺たちの仕事に比べたら上等な仕事だと思わないか?」

「そういう事言うと後で仕返しされるかもよ」

「仕返しってこいつにか?」

「もしかしてこの話し聞いてるかもしれないでしょ?」

斎は目の前の巨体を指さす。

「だとしても氷漬けじゃ怖くもなんともないがな。まあ、俺が生きてる間に氷が溶けないことを祈るさ」

そう言って上司は戻っていった。

アレンはNBE-1を危険視していたようだ。手記には彼らNBEの技術がどれほど優れているか、体の大きさの違いで単純な力でも既に人間は劣っていると書かれていた。実際目の前にして斎もそう思う。だから、本当は彼らの存在を恐れて然るべきなのだ。それに氷漬けにされてそのうえ勝手に身体の構造まで調べられてるというのだから恨まれて当然。

もし氷が溶けるような事があっても怒りの矛先を私に向けないでくれよ、と斎は心の中で呟いた。


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