Lonsdaleite00
家から飛び出し斎は大学へ向かうバスに急いで飛び込んだ。今日もぎりぎりセーフ。
運転席のおじさんに挨拶して後部の空いてる席へ向かうと、途中で知り合いに声をかけられた。
「Hey、斎!昨日の騒ぎお前の仕業だろ?」
「昨日…何かあった?」
返事を返しながら席に座る。騒ぎを起こした記憶はない。いつだって騒ぎが起こると自分に白羽の矢が立つのだからまいる。
「何って大学のHPがそのままゲイ・バーになってたことだって。お前の仕業じゃなかったら誰がやるってんだ?校長のケツ穴はユルユルだって書いてただろう!」
その言葉で斎は急激に昨日の出来事を思い出した。たしか大学のHPに不正アクセスしてあの面白くもなんともないレイアウトをセンスあふれる笑いの殿堂に変えてやったのだった。
「ユルユルなのはケツ穴だけじゃなくて頭もって書いたんだよ」
その言葉を聞いてバス内に笑いが響いた。
大学のHPが何者かによって悪質な内容に改悪されたのはもう学校内で知らない人はいないし、その犯人もトラブルメーカーでパソコン技術に明るい斎以外にいないと誰しも思っていた。
そんな問題児の彼女は周りの談笑に笑みを零しつつ、手提げのカバンからうまい棒コーンポタージュ味を取り出すともりもり食べだした。今日の朝ごはんである。
大学へ着くと鬼がいた。鬼ではなくて大学の先生の1人なのだけど、その険しい顔つきに「鬼が出待ちしてる」と思わずにはいられない。2本目のうまい棒を口に突っ込みながら斎は少し憂鬱だった。
最後にバスを出た斎はその先生に手招きされて、渋々後をついて行った。確か、この先生の説明文には『校長のゲイナイトのお相手』と書いてた気がする、と自分のした事を思い出した。
到着したのは校長室で中には某"ケツと頭がユルユル校長"。"校長の愛人"はアルマを校長室に送るとサッサと消えてしまった。
校長は斎を椅子に座るように促すと早速本題に突入した。
「何で呼び出したか分かるね?」
「いや、ちょっと分からないですね」
と、校長が机の上に置いてあったノートパソコンの画面を斎へ向けた。そこには例の元大学のHPが写っており、黒い背景にピンクでゲイバー〇〇大学と大きく書かれている。
「あー、それね。それですか。今噂になってますよねー」
分かりきっていたことだけれど、斎はわざとらしくそう言った。
「キミは頭もいいし、人当たりもいい。なのに度々問題を起こす問題児でとても残念だよ、斎君。」
「そうですか。で、今回は何をさせられるんですかね。またトイレ掃除ですか?」
斎は回転椅子に乗りながらその場でクルクル回った。反省の色は全く見えない。
「停学処分だ」
その瞬間斎の動きは止まった。
「停学?いつまで」
表情が曇る。
「君が反省するまで」
「わかりました」
斎はそう言うと話を続ける気にならず、校長室を後にした。
本人はジョークのつもりでやっただけで、さすがに停学処分を食らうとは思っていなかった。それだけに少し驚いた。よっぽど先生方はお怒りだったのだろう。
斎はバスで来た道を今度は徒歩で帰ることになった。
帰宅してまず思ったのは停学中の暇をどうやって潰すかという事で、アルマはことのほか退屈が嫌いだった。
しばらくイライラに任せて家の中をうろつき勢いに任せてベッドに飛び込んだのだが、その衝撃でウォールシェルフが壁から外れて上から物が落ちてきた。まさに踏んだり蹴ったりである。
背中に本やら置物やら落ちてきたものが当たって痛かったが、ふと、落ちてきた物の中に酷くボロボロな手帳があるのを見つけた。
「ああ、こんなところにしまってたのか」
と、ごちてそれを手に取る。
薄汚れた手帳は斎の高祖母にあたる、アレン・ロンズデーライトの手記だ。
この中にはその高祖母が関わってたらしいアイスマン計画の事が書かれており、アレン以降のロンズデーライト家に代々受け継いできたものだった。
嘘か本当か分からない内容に父親が「くだらない」と一蹴していたのを斎は思い出した。確かに北極で氷漬けのエイリアンを見つけたとか、そのエイリアンを元にして自動車や携帯などが生まれたなど信じ難い事が手記には沢山書いてある。
でも、
もしここに書いてあることが全て本当だったら、それは、とても面白いことじゃないか。
斎はベッドから飛び出すと早速パソコンへ向かった。
思ったよりも楽しい停学ライフをおくれそうだ。