ドマ城 I
帝国の将軍であるレオは単騎急ぎ足で帝国陣内を歩いていた。
向かう先はケフカのテント。
普段は必要最低限の情報交換や会議以外では近寄らない場所にレオ将軍が出向いているのには、もちろん理由があった。
先日のケフカの出撃。レオ将軍の目が離れていた時に起こった出来事は、あまりにも悲惨な結末で幕を下ろしていた。
レオ将軍は事の詳細は知らない。
兵たちの会話の中に噂のように広がった事しか把握できていない。
それはケフカが独断で行ったその行為をその後報告すらしていないのにも問題があった。
分かっている事は、ケフカはドマとの戦いに全く関係ない商人をほぼ皆殺しにしてしまったこと。
そして、その襲撃で<何か>をここに持ち帰ってきたこと。それだけだ。
前々からケフカは目に余る言動を繰り返していたが、今回ばかりは不問にすることはできない。
監督が行き届いていなかった自分の不甲斐なさにもイラつき、レオ将軍は強く拳を握り締めた。
そうレオ将軍はケフカのテントの中に突撃していった。
が、テントの中の光景を見てレオ将軍は一瞬言葉を失った。
ベッドの上に青白い顔で横たわる黒髪の少女。そしてその少女の髪にクシをいれるケフカの姿に。
ケフカはレオ将軍へ目を向けて、あからさまに嫌な顔をした。
「お早いご登場で。」皮肉混じりに言うケフカの目はすでに少女の方に向いていた。
「ケフカ、なぜ、独断で兵を出した。一体何の為に罪もない人の命を絶った!」
「おまえには関係ない。」
「ケフカ!」レオ将軍が言及しようとすると、ケフカは糸が切れたようにいきなり椅子から立ち上がった。
「あ〜もう、煩い!斎が起きてしまうだろ!!?」手の中でクシが折れる音。
レオ将軍は口を閉ざして、ケフカもレオ将軍を睨んだまま沈黙した。
数秒後。先に口を開いたのはレオ将軍だった。
「斎というのかその子は。…どうするつもりだ。」
レオ将軍はヘルマへ目を向ける。
静かに寝息を立てている少女に、ふと、今や自由になって帝国から離れていった少女の影を見た気がした。
「こいつは俺様のものだ。おまえさんには小指の爪の先ほども関係ない。」
「大切に思うなら、なぜ…。」そこまで言ってレオ将軍は口を閉ざした。
そういえばそうだった。この男はそういう奴なのだから。
自分が何を言ってもケフカに伝わることはない。今までそうだった。きっとこれからも。
レオ将軍はこめかみに手を押し当てた。
「後に会議で話すとしよう。」
レオ将軍は踵を返してテントを後にした。
とてもじゃないけど、斎と呼ばれた商人の娘とケフカを引き離す事が出来なかった。
少女の髪を梳かしていた時のケフカの穏やかな顔。
少女の存在がケフカにいい影響を与えてくれるのではないか?そんな期待すら浮かんで。
レオ将軍は罪悪感を抱える。
もしそうならここは少女にとって生き地獄になるだろうし、少女を助けたとしてもそれはケフカに還元することになるのだから。
結局その後の会議でもレオ将軍とケフカの話し合いは縺れ拗れ、ケフカは少女を譲らなかった。
今のレオ将軍には少女が目を覚ますのを待つしかできない。
日ならず閉じられていた黒い双眸が開かれた。