リターナー本部


目的地はサーベル山脈。マッシュと出会ったコルツ山の東にある山脈だ。
山を降りたらすぐに着くとは言われていたけど、全然すぐじゃなかった。


けれど、道中こっそりと魔法の練習をしていたのもあって、ただただ歩いてるだけの時間は少なかった。
私には攻撃魔法には才能が無いようでさっぱりだけど、回復魔法はちょこっと使えるようになった。

魔法を使う感覚は何て言うのだろう。疲れる感じ…?これがMPを消費するっていう事なのかとぼんやり理解した。


目的の場所はサーベル山脈の側面を堀進められてできた、横穴式住居のような場所で、秘密基地のような少年が好きそうな雰囲気。
だけど中に入ると武器がずらりと並んでいて物々しく、やっぱり。

リターナーという組織の本部と言っていた。分かりやすく言うと反帝国組織らしい。

兵士に案内されて奥の部屋に入ると、面白いくらいに髪の毛を蓄えたまるで獅子のような人がそこにいた。ヒゲと髪の毛の境目が分からない。

「バナン様。例の娘を連れてまいりました。」と、エドガー。

「ほう、この娘か…氷づけの幻獣と反応したというのは。」

興味深そうに私の後ろにいるティナの方を見てそう言う。バナン…この人がエドガーが言っていたティナに会ってもらいたい人か…。

ティナが不安げに「幻獣…?」と呟くのが聞こえた。ティナは幻獣と会ったときのことを覚えていない。


「どうやらこの娘は帝国に操られていたようです」

「伝書鳩の知らせで、おおよそは聞いておる。帝国兵50人をたったの3分で皆殺しにしたとか…。」

「いやー!」ティナが叫び声をあげた。部屋の隅に逃げるように走り出したティナに私とロックが駆け寄る。

余程思い出したくないのだろうか…。人を殺した記憶なんていい思い出な筈がない。ティナは泣いていた。

「バナン様酷すぎます!」非難するエドガー。


だけどバナンは座り込むティナに大声を出した。

「逃げるな!こんな話を知っておるか?まだ邪悪な心が人々の中に存在しない頃、開けてはならないとされていた一つの箱があった。だが、一人の男が箱を開けてしまった。中から出たのは、あらゆる邪悪な心…嫉妬…ねたみ…独占…破壊…支配…。だが、箱の奥に一粒の光が残っていた…希望と言う名の光じゃ。」

なにやら長ったらしく話し出すバナン。パンドラの匣の話だろうか。この世界にもその手の神話の話があるなんて驚き。

ティナは話を難しそうな顔をしながら黙って聞いていた。

「どんな事があろうと、自分の力を呪われたものと考えるな。おぬしは世界に残された最後の一粒。「希望」という名の一粒の光じゃ。」

バナンは一息する。

「疲れた…休ませてもらうよ。」


エドガーはバナンの様子を見、そしてみんなを部屋から出るように促した。

ずらずらとみんなが部屋の外へ出ていく。最後に私が部屋から出ようとするとバナンが呼び止めてきた。

「黒髪の娘。」

「はい?」振り向く。

「おぬしの事も伝書鳩で知っておる。」

「道中、さぞ苦労しただろう。おぬしにその気があるならリターナーに属する気はないか?」

「考えておきます。」考えるつもりもなにも、そんな気はないけど。

バナンはまだ何か言いたいようだったけど、「では。」と言ってさっさと部屋から出た。


なんだかんだ言って、何も分からないティナを利用しようとしているだけじゃ?
結局立場は変わってもそういうところは一緒らしい。


何だか疲れた…。先に行ったエドガー達を追いかけた。


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