フィガロ城 IV


道化の様な出で立ちのこの男、ケフカは上機嫌だった。

フィガロというチンケな立地も悪ければ気候も悪い最悪な場所に、派遣され、散々な思いだったが。

予想外の発見に、胸が踊っていた。

壊れた人形″の足取りを追っていたその先で見つけた『彼女』にすっかり、興味を奪われてしまった。

この辺りでは珍しい漆黒の髪に瞳。色白の日焼けを知らないとでも言うような肌。愛おしい。


そして…

『彼女』の身体の中には血潮のように魔力が巡っていた。

心地よい魔力の脈動が心臓に耳を当てなくても分かった。

それに『彼女』は報告にあった壊れた人形と一緒にいた少女″であると考えている。いや、確信している。

『彼女』を泳がし手に入れて壊れた人形″も帝国へ連れ戻す。

まさに一石二鳥。

ケフカは高笑いを堪え切れないように吐き出す。
その様子を恐ろしいものでも見るように彼の部下たちは遠巻きにして見ていた。

「ま、夜まで待ちましょーかね。」

笑いが収まると、そう言って胡座をかくケフカだった。

万能に見える魔道アーマーも砂漠の日差しに弱いのは難点だ。









フィガロの夜。

砂漠の夜は冷えるとは聞いていたけど、確かにその通りだった。

私はエドガーから貰った部屋で布団にくるまって寝ていた。
が、夜のしじまが突然打ち消され、私の意識は現実に引き戻された。

人の慌てふためく声が上がる。

城の中が煩くなったことに私は飛び起きた。

窓から見える外の景色が少し明るい。日の出にはまだ早いはず。
窓辺に駆け寄ると、城の所々に火の手が上がっているのが見えた。

一体何が…。

全身の毛が逆立つような緊張。騒つく。


私が眠気と現状に混乱する頭を整理しようとした時、部屋の扉が開いた。
フィガロの兵士が一人、部屋に入ってくる。

「斎さん、帝国が襲ってきました!今すぐ出発する準備を!」

「ん…どこへ?」事態が把握できずに間抜けな声。

「あなたもティナさん同様帝国に狙われています。斎さんがフィガロに残るのは陛下が危険だと考えたのです。これから陛下たちと共にサウスフィガロへ。」

「そう、なんだ。…みんなは?」

「ご友人らは東の塔に。陛下はケフカの相手をしていますが、ご安心を。すぐに追いつくと。」

ケフカ…そうか。帝国が襲ってきたのだからケフカがいるのもごもっともだ。
昼時に会ったばかりだしね。

「分かりました。」


私の持ち物なんてたかがしれている。少量の私物と着替えを適当に袋に突っ込んだ。

面倒臭いことになったものの、まだ旅を続けられることに少し気持ちが浮く。
まだティナと一緒にいられるんだもの。

さようなら。スローライフ。



兵士の案内で城外へと向かう。

途中でデイナー近くの机にパンやジャムが置いてあったのでそれも突っ込んだ。

本当なら、城外へと出ればティナ達と合流出来たのだろうが、兵士が城の扉に手をかけピタリと動きを止めた。
何かあったのかと訝しげに思ったが、扉の向こうから聞こえる甲高い声に私は納得した。

「魔導の娘を出せ!」

「いないと言っているだろう!」と、エドガーの声も聞こえた。


扉の隙間から覗くと、二人の姿が見えた。ケフカの背後には黒塗りの魔導アーマーが2台。
こちらから外に出ることは出来なさそう。

「では斎を出してもらおうか!こんな砂だらけの場所にわざわざ来たうえ、手ぶらで帰れるものか!」

「彼女は渡せない!」

「心配しないでもあなたの代わりに大事にしてあげますから…ねっ!」

強く語尾を言うのと同時にケフカの手から赤い魔力の玉が飛んだ。

その玉はエドガーの横をすり抜け城へ。私の方へ飛んできた。
急いで扉から離れようとしたが、間も無く扉に着弾し、爆発。扉は音を立てて目の前で砕けて焼けた。

目の前で扉に大きな穴が空いたのをえも言えず呆然と見ていたら、エドガーの声で我に帰らされた。

「斎?何でここに!」

「集合しようと思ったんだけど。」


ちらりと視線をケフカの方に向けると上機嫌そうな笑みが見えた。

「おんやあ?斎ちゃーん、そんな所にいたんですか。」指をひらひらとムカデの足のようにくねらせている。


「ね、斎、僕と一緒に帝国に行きましょう?私が一生養ってあげますから。」

「なんか嫌。」

「ワガママはいけないですよ。」

「我が儘はどっちだ!斎、こっちへ。」

エドガーに呼ばれてその横まで駆け寄ると、走ってやってきたチョコボの上に投げられるように乗せられた。
エドガーも走ってきたチョコボに飛び乗る。


「おやおや。一国の王が駆け落ちでもするつもりですか!こりゃあユカイ!ヒッヒッヒッ……チッ」

高笑いをしたと思ったら苛立たしそうに舌打ちをする。笑ったり怒ったり忙しい人…。

エドガーと私は待機していたティナとロックと合流する。

「乗れ!」

4羽のチョコボは城壁の外へと駆け出る。

私達を追ってケフカが城の外へ出た時、エドガーが合図を出した。
すると、フィガロ城は大きな揺れと音と共にその大きな巨体を砂の中に沈めていった。唖然。

城は沈んでしまったけれど、中の人達は呼吸とか大丈夫なのだろうか…。
本当に砂上の楼閣だったようだ。

激しい揺れにケフカは立っていられなかったらしい。
砂地に手足をつけて伏せていたけど、揺れが収まると同時に立ち上がり走り去ろうとしているチョコボ…私達の方を指さす。

「行け!殺せ!」

その声を合図に控えていた魔導アーマーが追いかけてきた。


「…魔導アーマーが追いかけてきてるけど。」

私が後ろを振り返って言うと、

「ああ、さすがに魔導アーマーは撒けないな。戦うぞ!ティナと斎は後方へ!」


Uターンして逆に魔道アーマーの方へ向かって行き、戦闘が始まった。
でも、あの魔道アーマーと戦うって…。

スピードはチョコボの方が負けているけど、機動性だったら負けてなかった。

砲撃を避けて、すれ違いざまにロックとエドガーは魔道アーマーの脚を狙って切りつける。
けれども、鉄の武器では擦り傷程度しかつけることができなかった。でしょうね。

「固いな。」

「エドガー、このままじゃ逃げ切れないぞ!どうする?」

二人は魔導アーマーの背後に回り立ち止まる。


―――と、私の隣でティナが魔法を放った。

魔道アーマーに火が飛んでいき、その乗り手が慌てて飛び降りるところまで見えた。魔導アーマーが爆発する。


残った魔導アーマー後続して私たちもエドガーとロックの方へ向かうとエドガーが慌てているのが見えた。
隣のロックの肩を揺さぶっている。

「どうしたんだよ、エドガー。突然驚いたりして?」

「いいいい今の見たよな?なっ?」

「ああ、あの子にはすごい能力があるみたいなんだ……。」そうロックは今までティナの魔法を見ている。

「何がすごい能力だよ!魔法だよ!ま、ほ、う!!」


「ま、ままままままほう!あれが魔法!?」事の重大さに今更やっと気づいたようで、エドガーと一緒になって慌てだす。

二人は相談するようにコソコソとおしゃべりを始めた。
ティナを魔導の娘って呼びながら、今まで本当に魔法が使えるなんて思っていなかったような感じ。

「ティナ、今のって、な、なんなのかなあ?」

魔法だろ。


「ごめんなさい、私…………。」ティナは悲しそうな顔をしていた。俯く。

「いいんだ、あやまるのはこっちの方だ、あんなに驚いたりして……。」

「ほんと、ほんと!魔法なんて初めて見たんで、つい、驚いてしまった。でも……君はいったい……?」

ティナは黙り込む。記憶がないんだもの。答えようが無い。

「いいじゃないか、エドガー。ティナは魔法が使える。俺達は使えない。それだけの事さ。そして、ティナの魔法は今、必要なんだ!」

「ありがとう!ロック。ありがとう!エドガー。」ティナは笑った。本当に嬉しそうな顔。


でれーーーっとするロックとエドガーのおふたがたを見て、私はこんなにゆっくりしてもいいものかと思った。

残った魔導アーマーはティナの魔法を警戒してか接近してこないのが幸いか。

もう一台の魔道アーマーもすぐティナの魔法のターゲットになって爆発させられた。



「ブラボー、フィガロ!」エドガーは剣を掲げて叫んだ。「どうだい?私の城は凄いだろう?」

「砂上の楼閣が?」ありのまま思ったことを言ったらエドガーはショックを受けたようだ。

「ええっ」


そんなやりとりをしながらチョコボを走らせているとケフカの横をすり抜けた。

「ヒーーーーくっそー!この借りは必ず返しますよ!」悪態を吐きながら、肩を怒らせているのが視界の端に見えた。

あれ?っと一つの疑問が湧いてきて、思わずケフカの方へ振り返る。

またあの瞳と視線が合う。
濃い化粧を施されたその表情からは何も汲み取れない。


……どうして魔法を使わない?


通り抜ける瞬間にチョコボを焼き鳥にするくらいできる筈なのに。

その疑問がやけに頭の中にぐるぐると、答えの出ない問題となって巡っていた。



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