フィガロ城 II
フィガロに到着した翌日。
私はティナと一緒に城の一角で朝食をとっていた。
皿からはみ出すほど大きな肉にナイフを入れ、それを一口大に切って口の中に押し込む。
口の中に肉の甘みが広がる。
あまりの美味しさに口の端が上がりそうになった。
フィガロに来るまでの道すがらではまともな料理は口にできなかった。
料理は戦うことができない私が作っていたけれども、自分が作った料理では満足することはなかったから、余計においしく感じるのかもしれない。
「斎はこれからどうするの?」ティナがそう聞いてきた。
口の中の肉を喉の奥に流し込む。肉が食道から胃に落ちるのが分かった。
私は一息ついた後、答える。
「んー、たぶんナルシェに帰る。」
「じゃあ、ここでお別れなの…?」
「…そうだね。」
しばらくの沈黙。
先に言葉を発したのはティナの方だった。
「私…斎が心配なの。」
心配?帝国に追いかけられているティナの方が私よりも危険な状況なのに。
「どうして?」
「だって、斎は他の人と違う…から。」
「?」
他の人と違う?
それは私がこの世界ではない別の世界からやって来たからだろうか。それ以外は至って普通の人間だと思ってる。
紅茶に口をつける。
「斎は、私と一緒なの。私には分かる。あなたには魔力がある…。」
にわかには信じられない言葉に、紅茶の入ったカップを落としかけた。
ゆっくりカップを机に置く。
「そう…なの?良く分からないけど、私もティナみたいに魔法で戦えるかなー。」
自分でも知らない事を何故ティナには分かるんだろう?
ティナが魔法を使えるから…?
自分でも魔力があるなんて全然分からなかった。
ティナの言うことが本当なら、使おうと思えば魔法を使えるのかな。
魔法を使えれば…
「魔法が怖くない?」
「どうだろ。そんなに怖くないかな。ティナの魔法は回復してくれるし、魔法も使い方次第…だよね?」
そう答えるとティナは嬉しそうに笑った。私も自然と笑顔になる。
ティナが私を心配してくれるのは分かる。
ティナは一見普通の女の子なのに、魔法の力を生まれながら持っていたから今まで穏やかな生活ができなかった。
私も魔法を使う素質があるってことなら気をつけないといけないってことだ。
それにしても、本当に魔力を持っているのが自覚できない。
「御嬢さん方、今朝の調子はどうだい?」エドガーがやって来てそう聞いてくる。
「ああ、エドガー。どうかした?」
「どうかしたって…昨日この城を案内するって約束しただろ?丁度二人とも食べ終わったみたいだし、これからどうだい?」
特にやることも無い。暇だし、これからしばらくはお世話になるのだから、見て回った方がいいに決まっている。
「じゃあ、行こうかな…ティナはどうする?」
「私も一緒に行く。」
「じゃあ、決まりだな!まずは神官長のところに案内しよう!」そう言うエドガーは嬉しそうだ。
私たちは城の中の探索に出かけた。