フィガロ城 I
私はティナとロックと一緒に南へ向かっている。
外の世界は聞いた通りでモンスターが徘徊していて危ない所だった。
非戦闘員の私に比べてティナは魔法が使えるし、ロックは戦い慣れているようだった。
モンスターと出くわすと足手まといにならないように遠くに逃げるぐらいしかできないのが悔しいけど、仕方がない。
ゆとりの世界で産まれ育ったもので。
南下していくと、周りは草原から砂地へと変わっていった。
砂地というか、砂漠。
ひらけた視界の先には城が見えた。目的地のフィガロだ。
フィガロの城は立地条件が悪すぎなのではないか。まさに砂上の楼閣。
私はフィガロに着いてまずそう思った。
城の前には門番がいて、私たちは門番に呼び止められた。
が、門番はロックの事を見ると、城に入ることを許してくれた。顔パスである。
前を歩くロックについて行き、城の奥にどんどん進む。
重い扉を開けた先には王座が。そこに座っていた男の人が私たちの姿を見て立ち上がり歩いてきた。
「ロック、今か今かと待ちわびたぞ。この二人が…。」男の視線が私とティナの間を行き交う。
「誰?あなたは。」ティナは警戒するように言った。
「おっと失礼。初対面のレディに対してする態度ではなかったな。私はフィガロ国王、エドガーだ。」
「へへ、俺が王様と知り合いだなんてビックリしたかい?じゃあ、またな。」そう言ってロックは玉座の間を後にする。
何か用事でもあるのかな?
私がロックの背中を目で追っていると、エドガーが声をかけてきた。
「黒髪の君が斎…だね?」
「そうです。」
「君のことは聞いている。ここまで大変だったろう。
状況が落ち着くまで、1年でも2年でもここに住んでくれてかまわない。なんだったら永住でも全然かまわないよ。むしろ大歓迎だ!」
「えぇっと、それは…ありがとうございます、王様。」
「城に可愛い娘が増える!国王の私からしても喜ばしい事だ!あと、私のことはエドガーと呼んでくれ。それと良かったら明日にでも城の中を案内しよう。」
王様…にしてはフランクな性格に私は狼狽えてしまう。
王様の誘いを断るわけにはいかない。私は頷いた。
エドガーは次にティナへ声をかける。
「帝国の兵士だってな。心配はいらない。フィガロはガストラ帝国と同盟国だ。しばらくゆっくりとしていくといい。それに私はレディを傷つけるつもりはない。」
「なぜ、私によくしてくれるの? 私のこの力のせい…?」ティナの言葉。記憶が無いから、よく知らない人に疑心暗鬼になっている。
「まず君の美しさが心をとらえたからさ。第2に君の好きなタイプが気にかかる…。魔導の力の事はその次かな。」
「……? どうしたの?」意味が分からないと首を傾げるティナ。
「私の口説きのテクニックも錆びついたかな?」と、エドガーはうな垂れて呟く。
やっぱりそういう人か。私は心の中で納得した。
「二人とも、今日は疲れただろう。部屋は用意してある。ゆっくり休むといい。」
エドガーはそう言うと玉座の間から出て行った。
「そうなのね……普通の女の人なら、その言葉に何かの感情を持つのね。でも、私は……。」
「…ティナ?」
「ううん、なんでもない。」