黎[レイ]


セルが。彼がベジータにボッコボコにされている。

心が痛む。
でも私は見てる事しかできない。


私は第二形態になった彼に連れられて、この島にやって来ていた。

人造人間を探すために彼は辺りの島を吹き飛ばしていたのだが、突然やってきたベジータに邪魔されこの状況。


さっきまであんなに調子に乗っていたのがウソみたいに、ベジータに遊ばれてしまってる。

そのうえトランクスもいるし、これは絶体絶命というやつかもしれない。
もしかして、完全体になる前にやられてしまうかも?



と、彼とベジータの戦いの揺れのせいで、突然私が立っていた足場が崩れた。


お間抜けにも、崩れた地面と一緒に転がり落ちてしまった。

肩から下手に落っこちたせいで、とにかく痛くてたまらない。
痛むところを触るとぬるっと生暖かい感触がした。

「ああもう…クソ。」小言の一言ぐらいは吐きたくもなる。




「き、君は…どうしてこんなところに?」
聞き覚えがある声。

ふと見るとくりくり頭のクリリンがいた。その足元には潰された機械片が。

恥ずかしい所を見られてしまった。いや、今はそれどころじゃない。

クリリンを無視して立ち上がると周りを見回す。と、これまた見た姿の二人組もいた。
彼が探していた人造人間たちだ。



「…セル。」彼に伝えないと。

「セル!!」大声を出した途端、口を塞がれてしまった。

大男の方の人造人間が私の口を塞ぐ。
力が強すぎてとてもじゃないけど自分の力では抜け出せそうにない。

「なんだい、そいつ。あのバケモノの仲間なのか?」
女の人造人間が言う。


口を塞がれたまま、目をぐるぐる回す。


どこにいっちゃったの?

彼の姿がみえない。戦っている感じはするのに。

精一杯の大声を出しても私の声では遠くまでは届かない。


完全体になればベジータにも負けないのに。


どうにか気づいてくれないものか。



と、突然身体の芯から湧き上がるような脈動を感じた。

こんな時に不整脈?と思ったがどうやら違うみたい。


「なっ、やめるんだ!気を抑えてくれ!」クリリンの慌てた声で気づく。

手から零れる淡い光。
あぁ、これが気なんだ。

気といえばもっと激しく吹き出るものを想像したけど、
私のは湧水のように湧き上がっては消えていく蛍火のように弱弱しいものだった。

抑えろと言われてもコントロールなんて分からない。
寧ろ彼を呼ぶためにもっと強い気を出したいくらいだったが、少しすると何事も無かったように光は薄らいでしまった。

霊体験のようで薄気味悪い。



ほどなく周辺の空気の流れが変わった気がした。
空気の流れというか、雰囲気というか。
抽象的にしか言い表せない。

何かが近づいてくるようなこの感じは…。


「な…どういうつもりだ?ベジータのやつ!」

クリリンの声で私はハッとする。

上空を見ればベジータがトランクスと戦っているのが見えた。


では彼は何処に?

何かが近づいてくると感じた方向を見ると、オレンジ色の尻尾が見えた。彼だ。

「見つけたぞ、18号!」響く低音。
彼が人造人間を見つけた。

何故か分からないけどベジータとトランクスは戦っているし、これは千載一遇のチャンスだ。


彼が構えた途端、ベジータと戦っていたトランクスが光弾を飛ばしてきた。


光弾は私たちのすぐ近くで着弾して、砂煙をまきあげて人造人間たちの姿を彼から隠す。
その隙に大男が私を掴む手を放し、18号に逃げるように促した。

大男は逃げるのを諦めているらしい。


私は邪魔にならないようにその場から離れると、空を見上げた。

砂煙が風に流されて彼の姿が見える。


青目をチラとこちらに向けて、すぐに18号の方を見る。


18号は逃げようとしていたみたいだが彼の方が圧倒的にスピードが勝っていて、18号の前に回り込むのに時間は要しなかった。


上空で爆ぜる音。見上げるとトランクスがベジータを退けて彼に向かって行っていた。

彼はトランクスが向かっているのに気付くと、両の掌を額に掲げた。

「太陽拳!」


目を刺すような光が降り注いで私は目を瞑り、開けた時にはもう18号の姿は無かった。

彼に吸収されたんだ。



また、彼の身体が変化していく。



とうとう完全体に。



喜劇か悲劇か。ここからが奇譚の本番だ。


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