味[ミ]
ふと降りてきた疑問。
彼は私と違って口でモノは食べない代わりに尻尾で人を食べるけど、『味』はするのだろうか。
もしかしたら『味』という概念すら持っていないかもしれないけど、私は尋ねたくなってしまった。
「ねぇ、人ってどんな味がするの?」
私は人を食べたことがないから分からないけど、その味は鶏肉だったりビーフだったり猪だと噂は多い。
今まで人以外を食べたことがないだろう彼が、人の味をどんなふうに表現するのか少し楽しみ。
が、
「自分の肌でも舐めてみたらどうだ。」
捻くれた返し。期待外れの答えに私は残念な面持ちになる。解せない。
でも、あまりしつこく聞くのも彼の癪に障るかもしれない。
私は黙って彼の背中を見つめた。
自分の肌を舐めてもしょっぱいだけだ。
彼はこちらを見はしない。
それもそうだろう。彼にとって私は『お腰につけたキビ団子』程度の物なのだから。
しばらくして私は考えた。
私は彼にとっていわゆる少し大きめのお弁当なのだが、
それは彼が私を食べ物と認識しているというわけで。
つまり人間は家畜と同じ食べ物。
彼はそれを生のまま食べているのだから、それはそれは生臭くてしょうがないだろう。
味だってきっと酷い。血の滴った肉に内臓。
いろんなものがぐちゃぐちゃに混ざったミンチを、味付けも無しに口に入れるようなものなんだから。
人間である自分からしたら、牛の内臓をかき混ぜてできたゼリーをストローで吸うような行為だ。
ムリだ。私にはとてもできない。
ふと、私は足を止めた。
彼が私の前で立ち止まったから。
何をしているんだ。
私が訝しげに思っていると、彼は顔をこちらに向けて凝視してきた。
彼の機嫌を損ねるような事はまだ言ってない筈だ。おそらく。
「……どうかした?」私は尋ねた。
表情というか雰囲気は別段悪くない。腹を立てているという訳ではなさそうだ。
「お前は普通に美味そうだな。」
「美味しそう?そう。」
不味いわけじゃないから、まぁ、良しとしよう。
人によってやっぱり味が違うらしい。
女子供は美味しいとか、そういう感じだろうか。
「何を笑ってる。」私の顔を見て彼が言う。
「だって。そりゃ、どうせ食べられるなら美味しく食べられた方が嬉しいでしょ?」
「……変なやつ。」