従[ジュウ]
今時はこんなに戦闘バリバリの漫画も珍しいんじゃないか。
私はものすごく離れて二人の戦いぶりを観戦していた。
それこそ二人がご飯粒に満たないくらい小さく見えるほど。
それでも私の周囲の建物は崩れ壊れているので、ここも安全とは言い難い。
やっぱりこの世界の戦いは人外じみていると、私は身に染みるように感じた。
そう感心する一方で私は少し退屈になった。
もともと戦いとかには興味がない。
野球、サッカーもろもろ試合には興味がないし、
それを面白いと思う感性がないから、当然二人の戦いもそれ以上の感慨が湧かなかった。
と言っても、ここから離れて行く宛てもないので観るのだけれども。
二人の戦いで崩れた建物の残骸に腰を下ろし、両肘をつく。
欠伸をしかけたその時、凄まじい閃光が二人の闘っていた方向から射す。
腕を振り上げて目を庇った。
これだけ離れていたのに目がチカチカする。
と、途端に謎の浮遊感。
一瞬足場が崩れたのかと思って焦るが、すぐにそうではないと気づいた。
無骨な感触。誰かに抱えられているようだ。
試しに少し暴れると体を締め付けられた。
「誰?」
私の問いにその何者かは答えない。
といっても、なんとなく想像はつくのだけれども。
段々と次第に目が見えるようになっていく。
人のそれとは程遠い緑色の横顔。
悪い方の緑色だ。
緑のその人に小脇に荷物のように抱えられている。
爆戦地のように残骸だらけの街を離れ、森の中に入る。
深く木々が立ち並んでいるこの場所は姿を隠すにはうってつけだろう。
そこまで来て彼は足を止める。
少々乱暴に私は地表に落とされた。
痛い。
ざらつく地表に手をついてしまって、砂がこびり付く。
立ち上がり手を払っていたら、いきなり襟を掴まれた。
「度々お預けを食らわせて悪かったな。」
緑の彼が私の首に尻尾を巻きつけて言った。
尾先が目の前で揺れる。
こんな状態になっているというのに未だ現実味が無さ過ぎて、頭の中は夜の湖畔の水面のように穏やかだった。
目の前の彼に抗ってもどうしようもないという諦めと、この訳の分からない現象への投げやりな気持ちからか。
日常で例えるなら勉強をしてないままテスト前日になってしまったときのような。そんな気持ち。
が、首に絞めつけるほどの強さで巻きつかれていた尾が緩んだ。
そのまま緑の彼は身体を離す。
「…どうしたの。食べないの?」
「気が、失せた。」
そう言って顔をあらぬ方へ向ける。
気まぐれな人なのかもしれない。
とにかく私は器用な人間でないから、どうしたらいいか惑ってしまった。
そう口閉している内にも彼は私に背を向けて茂みに入っていく。
待ってほしい。こんなところに独り置き去りは酷い。
私は立ち上がると一歩踏み出した。けれど、それ以上は進めなかった。
連いて行ってもいいのか分からなくて悩む。
なんて声をかければいいのかも分からないものだから、黙って背中を見る事しかできなかった。
と、彼が振り返る。
「連いて来い。その内必ずお前も喰ってやる。」
その一言がどんなにありがた迷惑だったことか。
独りにならなくて済んだ安心と混ざって、複雑な心境に私は訳も分からず笑うのだった。