嗚咽を我慢して、ただただ叫びつづけた。 手で目元の涙をぬぐってから視界の先にはもうイタチがいないということがわかると、まるでナイフで刺されたかのように胸が苦しくなった。 間違いなくあの人はイタチだった、せっかく会えたのになんで私ったらこけちゃったんだろ。 あまりにも自分が情けない。みっともないほど大きくしゃくりあげながら泣き続けることしかできなくて、人様の家の屋根の上だとは分かっていながらももう動く気すらしない。 のたれ死んだような滑稽な恰好、雨のせいで静かに奪われていく体温、雨に濡れた瓦の非常に不愉快な感触。時間を巻き戻したいだとかそんな生ぬるいことじゃない、いっそのこと死んでしまいたい、そう本気で思ったその時、雨が止んだ。 いや、雨がやんだわけではない。ただ私に降りかかる滴がなくなったというだけであって、広がる景色は数分前と変わらずどんよりとしている。 なんで。微かに残っていた力を振り絞って、頭をあげて上を見上げる。 赤い傘?そう、わたしがさっき投げ捨てたもの。 その傘からゆっくりと視線を伝っていくと、赤雲が描かれた黒地のコートに頭部をすっぽりと隠す竹の笠、さっきと同じ、暁の衣装。そしてその笠から微かにのぞいた、赤い眼、写輪眼。 「…イタチ」 鈍い痛みを携えた手を懸命にイタチのほうに伸ばす。もちろん、わたしの手の長さではイタチの体に触れることすらできなかったが、それでもあきらめずに必死に伸ばし続ける。 するとイタチは私に傾けていた赤い傘をゆっくりと私の手元に持っていき、傘の柄をその掌に握らせた。 もともとは彼の所有物だったものが、今なぜだか彼の手から私へとわたっていく。霞んだ意識の中、ゼンマイがきれかかったオルゴールのように時間が速度を緩めた気がする。その瞬間、一瞬だけ触れた彼の手はひどく温かだった。 「ありがとう、コマチ」 その声を聴いて、もう一度彼の顔をよく見ようと涙を拭けば、そこにイタチの姿は既になかった。 (mainにもどる) |