赤いアンブレラ | ナノ
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私が一向にアクションを起こさないのを良いことに、暁衣装のそいつは笠を少し上にずらす。その拍子にやっと現れた顔、ほらやっぱり、イタチだった。


「…イタ、チ」


やっとのことで絞り出した声はお世辞にも綺麗なものだとは思えない。それでも待ち焦がれた彼の姿を前にして、やっと踏み出せた一歩。イタチ、イタチ。昔、コマチと甘く優しく呼んでくれた、イタチの声を頭で反芻してから、震える手を彼に向って伸ばす。



しかし次の瞬間、彼は突然踵を返し、私の前から姿を消そうとした。


「待ってイタチ!」



地面を蹴って、屋根から屋根へ飛び移る彼を負わなくては、と持っていた赤い傘を投げ捨てて、彼と同じように地面を、屋根を蹴る。

決して弱くはない雨のおかげで私の体は瞬く間に雨に濡れていき、面倒なほど重くなった。しかし、やっと再会できた彼とこのままバイバイにしたくない。ここ最近任務でも出さないような全身全霊の力をこめて私は必死に彼の背中を追った。


どこまでだって彼を追いかけてやろう、そう覚悟した瞬間、足が滑った。雨に濡れた瓦は思いのほか滑りやすかった、イタチに精一杯で足元の注意がおろそかだったのもある。無様にも大きな音を立ててすっころんだ私を置いて、イタチの背中はどんどん小さくなっていく。

立ち上がろうにも打ち所が悪かったのか全身がキシキシと痛み、鉛のように重い。涙と雨のせいで、小さくなった彼の姿がぼやけてさらに見えなくなっていく。いやだ、こんなのいやだ。



「わたし!上忍になったの!」


今私にできる、精一杯の叫び声。


「イタチに追いつきたっくて!がんばってがんばって、すごくがんばったの!」


何をいってるのだろうと、頭の片隅の冷静な部分で考えた。


「イタチを忘れたことなんてないっていったら、嘘になるけど、イタチのことばっかり思い出しちゃうの!」


もう聞こえてないかもしれない。




「いまでも!本当に、イタチのこと、が、好きだから!」