忍少年と碧血丹心 003
◇ ◇ ◇
最初は大量の味噌だった。
それも全国各地の名のある名産品である。
少なくとも普通のスーパーでは買えない、特注品だと聞いたことがあるそれが、届いたダンボールに入っていた。
次は大量の里芋だった。
以下同文と省略してしまう、庶民の味方の中でもリッチであるそれだ。
…普通のと比べて唯一違うのは大きさだろうか。
その次は樽一個分はありそうな大量の米。
ブランドは『コシヒカリ』。
直送とあってか、袋は販売を目的としない茶色の大きな紙袋で届いた。
その後に届いたのは高級羽毛布団。
軽くウン万円はしそうなそれに度肝を突かれた。
送り主は氏名や住所明記が空欄だったために不明。
届いたそれらの接点といえば必ず手紙が一枚オプションとしてついて来る事。
『俺はお前と違い、恩を買えば返したくなる。逆を言えば、恩を売ったら必ず返せという事だ』
―――なんだ、この俺様的手紙は。
あれか。新しい詐欺の手口か。
それは男が帰って1日後、連日に起こった小さな変化だった。
昔の家を思い出させるような玄関に積まれた多量のダンボールの山。
このままでは玄関が埋まる。
もしかすれば明日も届くのではと、消費しきれないほどの量に忍は迷惑とさえ思えた。
「間違いあらへん…。これはあの人の仕業やな…」
むろん忍はこれらに手をつける事はしなかった。
手を出して、何が起こるか分かったもんではないからだ。
『―――狙いは何だ?金か?地位か?それとも…』
あの傲慢知己な笑みを思い出すだけで口の中が苦くなる思いである。
…たしかに、その食材に魅力は感じたが。
もはや終わった事と片付けたのに、再び掘り出されてしまった。
しかし分からないのはあれだ。
自分の氏名と住所を一体どうやって知ったのかと言う謎である。
教えた覚えはないが、まさか人様ん家の郵便受けを覗いたとか…?
いや、それはありえない。プライドだけは高いあの王様である。
そんな地味な事するはずない。そもそも『郵便受け』というものを、あの男が知ってるとは思えず…。
金持ちなのだからお手伝いさんやら執事がいて、彼らが主人に代わって手紙などの管理はしているのではないか?
もしも郵便受けを知っていたとしよう。
あの鳥の巣にも似た木箱郵便受けに顔を突っ込んで覗く姿を『あの男』で想像しただけで笑えてくる。
凄く面白い冗談だ。
こればっかりは忍がいくら頭を捻らせても分かる事ではなかった。
ただ、何か嫌な予感がしてならない。虫の知らせと言うべきか―――何故かそわそわして落ち着かない。
―――あの人がのこのこと現れるのではないか…。
そう不安を胸に詰まらせた4日目。
「―――お前誰だ」
「…。山田太郎です」
-3-
[back] [next]