忍少年と一期一会 11
男は食事後、再び熱を出した。
それでも微熱程度で、男が不調を訴える事はなかった。
ただ、腕の傷が燃えるように痛むと訴えるので、忍はその代えだけをした。
包帯を巻きつけて、一回だけぽんと終了を告げるように傷の無い肌を押してやる。
「終わりましたよ」
けれど、男は肌蹴た着物を着ようとはしなかった。
青痣や腫れた傷の中でも、思わず感嘆をもらしてしまうほど美しい体が惜しげもなく晒されている。
無駄な肉が無い。
けれど余分な筋肉も無い。
理想を形にしたようなその体の作りは剣道や柔道などやっていたようにも思えるスタイルだった。
しかしいくら鍛え上げられた肉体とはいえ、寒さに強いわけではないはずだ。
ストーブも暖房も無いこの部屋でその格好のままはいくらなんでも寒すぎる。
不思議に首を傾げて、忍は無言のまま男を見上げた。
視線が、絡み合う。
忍が顔を上げた時には既に、男は忍を見ていた。
琥珀色の、獲物を狩る様な眼に射られて、ぴくりと忍の肩が一瞬跳ね飛んだ。
己は一体何に驚いたのか。
内心で自嘲を零しながら、忍は相手を攻めるように目を細めた。
「あなた風邪を引きたいんですか…?せっかく治りかけてるのに、そんな冷えた格好をしてるとまた酷くなりますよ」
「そうなれば、お前はまた俺の世話役だ」
「…何言ってるんです。冗談にもなりませんよ。俺にも俺の生活スタイルがあるんですから、ちゃっちゃか治して下さい」
「―――おしいなぁ……俺としてはお前に世話されるのは嫌じゃないだがな」
「…。俺は嫌ですよ」
いつも冗談さえ交えて忍を馬鹿にして笑うというのに、男の目はいたって真剣だった。
怖いというよりも困る。
忍の心底複雑な感情が目に見えたように、ふっと男は笑みを零した。
それが少し自嘲に見えたのは気のせいだろうか。
「そういえば、覚えているか?―――『いつか後悔する』ってお前に言った事」
「言いましたね。それが…?」
瞬時に危機感を察知し、忍が後ろへ下がろうとした瞬間を男は捕らえれた。
「今がその時かもしれねぇって話だよ」
体は男の重みとあってあっという間に横転し、忍の華奢な体は男の体の下敷きになる。
別の言い方ならばそれは組み敷かれたと言っていいのかもしれない。
忍が足やら手やらを使って暴れるが、体力を回復した男の完璧な縛り技に歯を食いしばるより他無かった。
「これっきりの関係なんだろう?」
「何企んでるんですか…」
「…いや。別に。これっきりの関係なら、思い出作りにでもお前を抱こうと思った訳だ。いい案だろう?」
「―――最低な案です。ほんと最悪」
「そう言うなよ。案外お前も嵌るかもしれねぇぞ?」
「冗談!!」
牙をむき出し、涎を垂らして目の前の獲物を見つめる―――それが今の男の状態だった。
彼の笑みからは冗談としか捉えられないものの、目に宿る熱っぽい色に忍は気がつき、戦慄のようなものが背筋を凍らせた。
―――本気だ
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