忍少年と一期一会 08


あっさりと腕を解いた相手は、腕を立てて頭を支え、寝転がったまま体を傾けてくつろぎ始める。
悪戯に成功した子供のように上機嫌な様子を見て、忍はわざとらしくため息を零した。

「あなたは俺が想定できない事ばかり仕掛けてきますね。猛獣の世話だってもう少し落ち着いてできますよ。本当にあなたの世話は飽きが来ません……」
「魅力的なオスだろ?どうせならこのまま俺を飼ってみるか?」

「止めてください……俺はそんなスリル望んじゃいません。そもそも、そんな冗談を真面目に受け取っている訳ではありませんが、あなたが大人しく飼われてくれるたまですか?―――俺は野生の猛獣を飼うつもりはありません……」

男は忍の回答が気に入ったのか、満足げに鼻を鳴らした。
忍は再び溜め息をついて、畳に落ちている濡れタオルを取り、布団の真上においてある水入れに突っ込んだ。

「―――まだ寝ていてください。夜になれば熱は上がりますから」

壁に掛けられた時計を見ればすでに9時。
本来なら既に起きている時間帯だ。
ぶるりと午前の寒さに身を竦ませながら、絞ったタオルを広げて男に向き直った。

「しかもその腕、怪我してるんだから、尚更安静にしていないと」

―――包帯巻いてるの誰だと思ってるんですか…と文句を零せば、少し錯雑とした様子で男は起き上がった。

「ちょっ……。寝て下さいって言ってるでしょ。なんで起き上がるんですか」

少し着崩した着物が様になるのは、さすが顔もよく体の作りも良い男だけあった。
しかし忍が男を一瞥したのはビジュアル云々ではなく、そのような薄着一枚のままではかなり寒いはずと案じていたからだ。
この部屋だって吐息は白くなる気温で、正直見ているこちらが震える。
だが、男はまるでそんな寒さなど微塵も感じていないようだった。
ただ一心に忍を見つめるのである。

それこそ忍がその視線に耐え切れなくなるまで。

「な、なんですか…」
「―――お前こんな危ない男を拾って身の危険も感じなかったのか?」

「は?」

「俺は殺人者だ」


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